1996 Fiscal Year Annual Research Report
水の瞬間断熱膨張による菌体破壊(殺菌)に関する研究
Project/Area Number |
08456128
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
早川 功 九州大学, 農学部, 助教授 (30038252)
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Keywords | 高圧殺菌 / 水の断熱膨張力 / 耐体性胞子 / Bacillus stearothemophilus / 菌耐破壊 / 断熱膨張 |
Research Abstract |
1918年、Zimmermanは高い静水圧と微生物の関係を報告して注目された。一方、我が国では、1989年から農林水産省を中心に食品産業への高圧技術の利用研究が推進され、それらの基礎的データの収集が行われた。しかし高圧殺菌機構の解明には至らなかった。それ故、代表者は高圧殺菌機構を解明し、高品質食品の開発に繋がる食品産業用殺菌技術の確立を目指し、水の瞬間断熱膨張力を応用した新型の高圧殺菌装置の開発を考えた。即ち、水が理想状態で断熱膨張するときは、加圧に要した圧力に依存せず、秒速1500mで膨張速度すること。またこの時の体積膨張係数は0℃、標準状態で2.04×10^4kg/cm^2であり、この体積膨張係数は圧縮圧力の増加に準じて直線的に増加する。この事実は、水が僅かなエネルギーの授受にも拘わらず、膨大な圧力が発生することを示唆する(水分子は2kcal/molのエネルギーで10000MPaの圧力を生む)。一方、水を100〜300MPaに加圧し、瞬間に減圧できるならば、大きな圧力が発生することを示す為、全く新しい水の瞬間断熱膨張装置を試作し、それを用いて微生物を物理的に破壊・殺菌する基礎研究を開始した。 一般的な耐熱性胞子を含めた多くの微生物は600MPaの加圧下で長時間生息することは出来ない。しかしこの圧力は鉄系部材の強度以上であるため、600MPaで殺菌できたが、実用的できない。従って、一般的なステンレス鋼の強度(圧力<400MPa)以内で殺菌可能な装置開発が必要である。また、使用圧力の低下は制作を容易にすると同時に装置コストの低下につながる為、メーカー、ユーザーの両面から求められている。更に効率的な高圧殺菌装置を開発するためにも高圧殺菌機構の解明は必須である。 開発装置の性能判断は食中毒菌として最も恐ろしく、且つ耐熱性でもあるClostridium botulinum(D値はD_<100>=50)が滅菌されることである。従ってClostridium属よりも取扱いが容易で、且つボツリヌス菌よりも遥かに強い(60倍)B.stearothermophilusの胞子を指標菌に用いて200MPaのD値を求めた。100℃のD値は3000分であるが、75℃で17分、85℃で11分、95℃で6分に激減し、殺菌効果の有効性が示された。また少なくともボツリヌス菌が滅菌できるものと考えられる。なお本菌は45℃、1000MPa、90分間、加圧しても全く殺菌されないことを確認している。 試作装置でB.stearothermophilusの胞子を75℃、200MPaで10^7c.f..U./mL以上、同じく100MPaでも10^5c.f.u./mL以上の殺菌効果を示し、胞子の高圧殺菌は胞子外套の物理的破壊によることを明らかにした。また栄養細胞の高圧殺菌は水の僅かな構造変化に基づく菌体内酵素やタンパク質の圧力変性に帰因することが明らかになった。
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[Publications] HAYAKAWA,Isao(他2名): "Novel Mechanical Treatments of Biomaterials.(in press)" Lebensmittel/Wissenaschaft und Technology. 29. 395-403 (1996)
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[Publications] HAYAKAWA,Isao(他2名): "Mechanism of High Pressure Denaturation of Protein" Lebensmittel/Wissenaschaft und Technology. 29. 756-762 (1996)