Research Abstract |
妊娠日数の確定しているヒツジ胎仔をもちいて慢性実験系を作成し,脱血による胎仔全身性低血圧を負荷して,脳室周囲白質軟化(PVL)に相当する病変を誘起しうる条件を検討した.低血圧の負荷(平均動脈圧25mmHg)を妊娠120日(ヒトの妊娠では32週頃に相当する)から開始し,順次妊娠日数を遡ったところ,妊娠113日目の胎仔に約35%の脱血を行った場合にPVL様病変が出現することを確認した.誘起された病変は,肉眼的には線条体ならびに視床レベルの脳室周囲白質に限局する散在性の巣状軟化性病変で,病理組織学的には軸索の膨化,凝固壊死,ミクログリア/マクロファージ系細胞の浸潤反応などヒトのPVLと同様の所見を示した.また,免疫組織学的には,神経細胞への障害を反映しPVLの診断に用いられるβ-amyloid precursor proteinも検出された. 対象を妊娠113日目に設定して行った低血圧負荷実験では,7例中5例にPVL様中枢神経系病変が確認され,低血圧負荷をかけなかった対照群3例には,中枢神経系病変は全く認められなかった.また,中等度の低酸素血症のみを負荷した場合にも中枢神経系病変の発生をみなかった. 内分泌学的マーカーとして,ACTH,AVP,アドレナリン,ノルアドレナリン,ドーパミン,コーチゾールの変動を,胎児モニターとして,心拍数,末梢血酸素飽和度,脳血流変動を検討しているが,低血圧負荷後に認められる心拍数ならびに脳血流量の特徴的変動が観察されており,現在,波形解析等を用いて各パラメーター間の関連ならびに内分泌変動との連関について解析中である.また,胎仔中枢神経系の発達段階とPVL発症との関連に関する成績も蓄積しており,これらを併せてPVLの発症機構を総合的に検討中である.さらに,PVL発症の予知・予防を念頭に置き,本研究の成果を臨床的に応用する可能性も模索中である.
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