1998 Fiscal Year Annual Research Report
生物と時間-アリストテレス生物学における時間把握の視点-
Project/Area Number |
08610015
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Research Institution | YAMAGATA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
篠澤 和久 山形大学, 人文学部, 助教授 (20211956)
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Keywords | 時間 / 生物 / 現実態 / エネルゲイア / プシューケー / アリストテレス |
Research Abstract |
本年度の論文「アリストテレス『霊魂論』の方法論」では、とくに「機能主義」解釈の当否をめぐる論争を考慮しながら、アリストテレスによる<プシューケー>の定義について考察した。その際、注目したのは定義の導出が「漸進的構成」である点である。これは、従来の解釈では見落とされてきた論点であると考えられる。 アリストテレス哲学の基底概念は「現実態」 (エネルゲイア)にある。「現実態」は、その対概念である「可能態」 (デュナミス)とともに、<時間>的様相をもつ。その意味内容の一端については、本研究者も論文「アリストテレスの時間論」その他によって明らかにしてきた。しかし、アリストテレス哲学において、現実態概念が生命的活動の原理としての<プシューケー>に最深部で連動していることも疑いをえない。アリストテレスが現実態という着想を取り出したのは、生物的存在者のあり方にほかならないからである。本年度は、『霊魂論』を対象として、現実態-時間-生物の関係の解析を試みた。時間的・有限的な存在である生物において現実態がどのように機能しているのかを探ることによって、アリストテレス哲学全体の基本的洞察はもとより、われわれ自身の生命観の見直しを図ることが、そのねらいであった。 本論文は、われわれの常識が抜きがたくもっている「<物>からの思考」 (原子論的思考枠)からの段階的な離脱が、定義の漸進的構成によって企図されていることを明らかにした。これによって、現実態および時間の捉え方を物的レベルから開放するための準備が整えられ、アリストテレスが形相として提示するプシューケーの機能が新たな視野のもとに展開されることになる。このことは、機能主義的解釈を採用するしないにかかわらず、アリストテレスの原基的洞察として今日われわれが再考を迫られている課題である。
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