1996 Fiscal Year Annual Research Report
「からだ」についてのイメージ・知の再検討,そしてその再構想の試み
Project/Area Number |
08610045
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
竹山 重光 和歌山県立医科大学, 教養部, 助教授 (60254520)
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Keywords | ルネ・デカルト / ウィリアム・ハ-ヴェイ / ケアの倫理 / からだ / 解剖学 / 生理学 |
Research Abstract |
「からだ」についての近代的で医学的なイメージが成立する際に、デカルトの諸説が大きな役割を果たしたことは疑いない。デカルトは、みずから動物解剖をも行い、その医学的所説は当時から本職の医者たちにも大きな影響を与えた。そこで本年度は、『人間論』に見られるようなデカルトの所説と、ほぼ同時代に生きた、解剖学者・生理学者であるウィリアム・ハ-ヴェイの説とを比較検討した。ハ-ヴェイは、一般に機械論的な見方の先駆者と考えられている。しかし実はそれは、デカルトというフィルターを通して得られた考え方であり、われわれは一般に、デカルトが理解したような姿で、ハ-ヴェイを理解していることが明らかになった。ハ-ヴェイ自身には、もっと複雑で豊富な「からだ」のイメージ・知が、敢えて言えばヴァイタリズム的な知が存在することが確認された。ここでおそらく次の問題となってくるのは、医学者集団のパラダイム形成がどのように行われたのか、あるいは、パラダイム間の葛藤を調査することである。 また本年度は、現代の医学医療においてその必要性が喧伝されている「ケア」についての考察をも試み、北アメリカを中心として議論が高まっている「ケア倫理」を調査してみた。そこで言わば陰画として認識されたのは、「ケアの倫理」においては、正義や原理ではなく感情や共感が強く主張されているが、「からだ」があらわれてはこないということである。そこでは「からだ」はほとんど語られていない。伝統的な倫理思想とは異なるものとして、関係性や応答を重視するものとして提出されている「ケアの倫理」においても、「からだ」が言わば不在であることは、一種の驚きであった。
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