1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610051
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
永原 恵三 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (70237551)
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Keywords | ツーリズム / ツ-リスト・アトラクション / 音楽文化 / ホール / 音楽祭 / 伝統芸能 |
Research Abstract |
この研究は、日本の音楽文化形成におけるツーリズムの影響を理論化する試みである。本年度の調査および資料収集による研究成果と今後の見通しは次の通りである。 1.音楽ホールの建設と観光化:札幌市に97年7月開館した札幌コンサートホールは、ツーリズムと音楽との関係のひとつの核として機能し始めている。日本の音楽文化における西洋音楽が、地域文化のなかでホールという現代の都市文化の祝祭的な「場」と、ツーリズムの枠組みをともなって生み出されていることが注目される。 2.音楽祭および音楽セミナーへのツーリズムの関与:紋別市の「オホーツク音楽祭in紋別」や帯広市の「十勝ひろびろ音楽祭」などは、西洋音楽の室内楽奏者を東京から招聘して、市民が西洋音楽に接する機会を与えている。また、97年からの「札幌古楽セミナー」は、全国からの参加者によるセミナーと海外からの招聘も含めたコンサートを行なっている。こうした、多様なあり方は「西洋音楽」自体が、ツ-リスト・アトラクションとなる可能性を示している。このような西洋音楽を中心とした方向性の一方で、それぞれの地域の文化をどのようにツーリズムに位置づけるのかについても、検討する必要がある。 3.伝統音楽芸能の観光上演と伝承プロセスの関わり:秋田県鹿角市の「大湯大太鼓」と「花輪ばやし」は、伝統行事としての遂行と観光行事としての上演の両側面をもちながら、その保存と継承の問題に直面している。伝承は、地域の共同体を支える軸となり、横と縦のつながりを維持しながら機能している。伝統音楽芸能の担い手に対して、ツ-リストは他者として上演の場に出会うが、その様々な関与のあり方のゆえに、それぞれの芸能は変化や固定のダイナミズムの様相を呈し、「伝統」と「創造」の絶えざる葛藤を生じている。こうした複雑かつ動的な側面について、さらに分析が必要である。
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