1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610051
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
永原 恵三 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (70237551)
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Keywords | 音楽文化 / ツーリズム / 音楽の場 / ホール / ツーリスト・アトラクション |
Research Abstract |
この研究は、日本の音楽文化形成におけるツーリズムの影響を理論化する試みである。本年度の調査および資料収集による研究成果と今後の見通しは次の通りである。 1、 音楽ホールの建設による地域文化活性化とツーリズム: 宮城県中新田町にあるバッハホールは、音楽専用ホールの建設による地域文化活性化の日本での最初の例として重要であり、西洋音楽の演奏のみならず町の文化会館として地域文化のためのハードウエアである。これは「ホール」が、音楽文化の一部でしかない西洋音楽のためだけでなく、ひろく地域文化の表れとしての「音楽」という営みの受皿でありつつその推進の場であることを示している。すなわち、西洋という狭いカテゴリーでの「音楽」や「文化」ではなく、それをも含んだうえでの地域に根ざした「音楽の場」あるいは「文化表象の場」として、「ホール」のもつ役割が再検討されねばならない時期にきていることがうかがわれる。こうした地域性(locality)のうえに、「ホール」は訪れる対象であるツーリスト・アトラクションとなり、そこにツーリズムという人の営みが成立すると考えられる。 2、 文献資料収集等: 近年の海外におけるツーリズム関連の文献は全体として事例研究が多く、それらを統合する形での理論的研究は乏しい。したがって、Dean MacCanneIIによる“THE TOURIST"(1976)は、現在でもその理論的枠組みの基礎を提起しており、その後の研究ではJohn Urryの研究が注目される。いずれもツーリストという「ひと」を中心にすえ、ツーリズムを人間の行動として捉えている。国内では安福恵美子による研究が、事例と理論とを結びつけ、近代におけるツーリズムを捉えようとしているものである。 3、 今後の展望: 地域文化の在り方を捉えるうえで、ツーリズムは人々の「往来」の場を生み出す営みとして重要な問題を提起しており、理論的基盤の整備が必要である。
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