1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610060
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Research Institution | Kyoto College of Art |
Principal Investigator |
川田 都樹子 京都芸術短期大学, 造形芸術学科, 講師 (00236548)
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Keywords | フォーマリズム / 美術批評 / ロジャー・フライ / ユリウス・マイヤー=グレーフェ / 白樺 / 日本近代美術 / バーナード・リーチ / 柳宗悦 |
Research Abstract |
フォーマリズムの美術批評の成立を20世紀初頭から中葉のロンドンを例に検証した。本年は特に、ロジャー・フライの初期の言説に、ドイツの批評家ユリウス・マイヤー=グレーフェの『モダン・アートの発達史』を中心とする美術史観がいかに影響を与えたのかを考察した。また、マイヤー=グレーフェ的な美術批評のあり方からの離脱が、フライにとってフォーマリズム批評の基盤を築く第一歩になっていたことがわかった。 さらに本年度は、日本の近代美術批評の方向を、ロンドンとの比較において考察した。日本にはフォーマリズム批評が定着せず、むしろ文学者(特に詩人)による主観的あるいは心情吐露としての美術批評が発達し、文学運動と美術運動が連動する形で発展したことはよく知られている。しかし特に雑誌『白樺』では、きわめて早い時期からロンドンの美術批評も翻訳・紹介されている。1913年にはすでに柳宗悦によって、ロジャー・フライの企画した「マネとポスト印象主義展(1910年)」カタログ序文が翻訳されているのである。しかし、批評態度としてのフォーマリズムが日本に根づかなかったのは、フライがそこから離脱していったマイヤー=グレーフェへの傾倒がすでに日本に存在していたためではないかと推測できる。また、ロンドンから来日したバーナード・リーチが、かつてロンドンのブルームズベリー・グループに接触していたことが判明。だが、フライがこのグループに参入する直前であったため、リーチはロンドンでのポスト印象主義の隆盛を実見することはなく、むしろ印象主義が流行していた状況を見ただけで来日したことが分かった。これが『白樺』をはじめとする日本近代の美術界と批評界の動向を大きく左右するものとなったということができる。
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Research Products
(11 results)
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[Publications] 川田都樹子: "インスタレーション前夜-展示空間の変遷とインスタレーション" 『美術手帳(BT)』(美術出版社). Vol.49 No.748. 48-55 (1998)
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[Publications] 川田都樹子: "ジャクソン・ポロック-そのスタイルの変遷をめぐって" 『美術手帳』(美術出版社). Vol.50 No750. 130-141 (1998)
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[Publications] 川田都樹子(訳): "C・グリーンバーグ「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」翻訳:解題" 『武蔵野美術』武蔵野美術大学. No.110. 19-24 (1998)
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[Publications] 川田都樹子: "「天地耕作」のフィールド・ワーク" 『美術手帳』(美術出版社). Vol.50.No.753. 181-188 (1998)
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[Publications] 川田都樹子: "モーリス・ドニ/ロジャー・フライ/クライヴ・ベル" 『月報』(国立国際美術館). 19. 3-4 (1998)
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[Publications] 川田都樹子: "ジャクソン・ポロック-“アクション"をめぐる考察" 『美術画報』(朝日美術通信社). No.19. 20-25 (1998)
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[Publications] 川田都樹子: "抽象表現主義の絵画/技法と素材からの再考" 『美術手帳』(美術出版社). Vol.51 No.769. 61-64 (1999)
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[Publications] 川田都樹子: "京都パブリック・アート研究会・活動報告" 『うりゅう』(京都芸術短期大学・紀要). 22号. 153-163 (1999)
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[Publications] 川田都樹子: "白樺派とブルームズベリー・グループ" 『近代国家における文化的アイデンティティとしての芸術』(京都造形芸術大学)(金澤弘・科研報告書). (印刷中). (1999)
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[Publications] 木下長宏・小林昌廣 編: "20世紀美術(担当部分「パブリック・アート)" 京都造形芸術大学通信教育部, 420ページ(内,P.330-343) (1998)
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[Publications] 並木誠士 編: "現代博物館学(担当部分.「都市」「エロス&グロテスク」「ポロック論」「シンディー・シャーマン論」" 京都造形芸術大学通信教育部, 287ページ(P2-P9,P10-P17,P212-227,P238-251 (1998)