1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610061
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
鼓 みどり 富山大学, 教育学部, 助教授 (40272885)
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Keywords | 写本挿絵 / カロリング朝 / ユトレヒト詩篇 / キリスト観 / カンティクム挿絵 |
Research Abstract |
今年度は、ユトレヒト詩篇挿絵の構造を分析し、その発想の起源を探るための素材を集める作業に着手した。先ず風景の中に説話表現を配した作例についてであるが、現在ヴァテイカン美術館に所蔵されている壁画「オデュッセウス風景」(紀元後1世紀)に着目し、関連文献を確認した。またウェルギリウス・ヴァテイカヌスやウィーン創世記などの初期キリスト教時代の写本挿絵についても、基本文献を入手し、様式の比較分析を行っている。写真図版の複写と整理は継続中であり、作成したフォトCDやスキャナを使用してのデータベース構築に着手している。「オデュッセウス風景」は、劇的な場面を敢えて遠くから眺め、風景の中にとけ込ませる発想が、ユトレヒト詩篇と共通しているので、今後この方向から考察を加えていきたい。 9月に「ユトレヒト詩篇展」(ユトレヒト、シント・カテリナ美術館)を見学し、ユトレヒト市篇をはじめ、カロリング朝時代の関連作品や、イングランドで制作されたコピー群を丹念に見る機会を得た。充実した図録によって研究の現状を把握し、自身の研究方針を確認した。すなわち(1)テキストと挿絵モティーフの対応のメカニズム、(2)各詩篇の主題と画面構成の関係、(3)カロリング朝時代におけるユトレヒト詩篇様式の受容、(4)写本後半部のカンテンィクム挿絵の重要性、である。このうち(4)については、ユトレヒト詩篇のカンティクム挿絵が、9世紀の贖罪論やキリスト観の変化を鮮やかに呈示していることを指摘した。またユトレヒト詩篇のカンテンィクム挿絵が、磔刑や冥府降下図像の発展と関連が深いという知見も得た。さらにカンテンィクム挿絵は、「緩やかな審判図」であるので、本文挿絵と合わせて今後も考察していく。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 鼓みどり: "ユトレヒト詩篇写本のカンティクム挿絵におけるキリスト磔図像について" 美術史における軌跡と波紋. 27-54 (1996)
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[Publications] 鼓みどり: "ユトレヒト詩篇展について" 日仏美術学会学報. 16(印刷中). (1996)
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[Publications] 辻佐保子(編): "メロヴィング・カロリングの写本と工芸「西欧初期中世の美術」" 小学館, 470 (1997)