1997 Fiscal Year Annual Research Report
消費社会における教師役割-教員文化の機能に注目して-
Project/Area Number |
08610271
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Research Institution | FUKUOKA UNIVERSITY OF EDUCATION |
Principal Investigator |
油布 佐和子 福岡教育大学, 教育学部, 助教授 (80183987)
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Keywords | 消費社会 / エスノグラフィー / 教師役割 |
Research Abstract |
本研究は、「豊かな社会」における新たな学校・教師役割を探ることを目的としており、平成8年度からの継続研究の最終年度に当たる。 平成8年度は、戦後の新聞、雑誌記事等の収集・検討から、わが国の戦後の学校及び教師の役割の変容について時系列的把握を行い、1960年代を境にして学校と社会の境界が明確になり、教師や生徒が学校の内部に囲いこまれるような状況が出現したこと、その後さらに、学校の内部で、学校・教師役割(管理・監督、責任の)明確化が進行してきたという点が明らかにしてきた。 本年度は、エスノグラフィーの手法を用いて、学校の内部過程、とりわけ教師の日常の教育行為を観察・記録し、現在の学校での教師の役割とその文化を実態レベルで把握することに努めた。とりわけ、現在生徒の監督、指導に教師役割が限定されてきているという前年度の知見を念頭に、教師-生徒関係に注目し、調査を実施した。 中学校におけるエスノグラフィー調査は、現在分析の途中であるが、これまでで明らかになった知見は、以下の通りである。 第一に、学校での生活時間の6割程度を教師は、指導や生徒との接触に費やしている。多数の生徒に同時に指導・接触しているように見えても実際には、個別の対応が主流である。従って、生徒によっては教師との接触・交流の量や質にかなりの差異が見られる、というような特徴が明らかになった。また日常の教師-生徒関係(教師役割)は、必ずしも指導上の管理・監督といった形式にとらわれるものではなく、パーソナルなやりとりが展開される重層的・多面的なものであることも明らかにされた。第二に、教師の職業継続意思や「やりがい」の基盤が、生徒とのパーソナルな交流にかなり大きく依拠していることが明らかになった。同時に、第三に、極めて重要だと思われることは、生徒が教師に対してさかんに「管理・監督」ではない「指導」を要求するという場面に(例えば、生徒が教師に「〜って言ってよ」「どうして注意しないの?」といたような発言する)遭遇したということである。地域社会でも家庭でも、大人と接触る機会の少ない子どもにとって、モデルとなる大人の姿を、子どもは教師に見ているのかもしれない。現在、このような知見を総合して考察するまでには至っていないが、教師役割(学校役割)の「縮小論」と「拡大論」の間で、学校現場では、何が求められているのかという点での有益な示唆が得られるのではないかと考えられる。
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[Publications] 油布 佐和子: "教師の指導観に関する実証的研究" 福岡教育大学紀要. 第47号. 89-99 (1998)
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[Publications] 油布 佐和子: "「学級がまとまらない」という現象をどう考えるか-その原因とメカニズム 社会・制度的背景を探る" 児童心理. 12月号 臨時増刊号. 20-28 (1997)
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[Publications] 油布 佐和子: "質的研究法による授業研究" 質的研究法による「いじめ」問題へのアプローチ, 311頁 (1997)