1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610380
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北原 敦 北海道大学, 文学部, 教授 (00011297)
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Keywords | ファシズム / ムッソリ-ニ |
Research Abstract |
1992年10月にムッソリ-ニ内閣が成立するが、それによって直ちにファシズム体制が形成されたわけではない。ファシズム体制は1925年から26年にかけての、いわゆるファシスト諸立法の制定を通して実現されていく。ファシズム体制の形成にあたっての最大の問題は、行政権をめぐる論争であった。従来の官庁機関による省庁行政に対して、ムッソリ-ニ内閣成立後、二方向からの批判が加えられた。一つは非妥協派ファシストからのもので、彼らは国家機関に代わって党機関が行政権を掌握することを主張した。もう一つは修正主義派ファシストによるもので、この立場は効率的な行政システムを創出するために省庁の統廃合を含めた行政改革の実施を主張した。ムッソリ-ニ内閣はこの二つの立場をともに斥けて、ファシズム体制を築くのであるが、その際に明確に「党は国家に従属する」ことを宣言して、国家機関を中心とする行政制度を維持した。これまでの研究の多くは、このことから、ファシズム体制は中央集権国家による一元的支配の体制であり、党は非政治化されて大衆動員の組織にすぎなくなったと解釈してきた。しかし、問題はそう単純ではない。ファシズム体制のもとで伝統的な省庁行政は維持されたが、それと並んで実に多数の公社・公団・事業団が新設され、実際にはこれら公社・公団・事業団が効率的な行政を行い、ここに党が重要な組織として参加しているのであ。つまり、ファシズム体制のもとで行政のあり方が新しい性格を帯びていることが理解されるのであり、例えばそこでは、これまで博愛に基づく「慈善」事業であったものが、行政に基づく「福祉」事業として社会的な意味付けがなされ、この福祉事業は旧来の省庁ではなく、党が参加したいわば「第二行政」機関によって扱われいることに注目する必要がでてくるのである。
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