1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610448
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Koka Women's University |
Principal Investigator |
山本 登朗 光華女子大学, 文学部, 教授 (40210538)
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Keywords | 伊勢物語 / 注釈 / 書き入れ / 写本 / 冷泉家流 / 鉄心斎文庫 |
Research Abstract |
初年度である今年度は、研究結果をまとめることよりも、まず資料の収集と整理を第一に考え、おもに鉄心斎文庫所蔵の写本約五百点の一部などを調査しながら、書き入れを有する約二十点の伊勢物語写本の撮影をおこない、あわせて今後の研究の進め方についての見通しをたてることを試みた。 本年度に撮影した写本は、そのほとんどが、いわゆる冷泉家流の古注を書き入れたものであるが、その注記は、比較的詳細なものからきわめて簡略なものまで、形態的にきわめて多様である。そのうち、比較的簡略な書き入れ注の内容は、古注独特の、物語に登場する無名の人物に具体的な人物名を比定してその名を書き入れた注がほとんどであり、注釈書の形を取った古注に多く見られる、語句などの出典として実際には存在しない作品を偽作して示したりする注記や、物語の表現の背後に隠された真意を示すなどといった内容は、その種の簡略な書き入れ注にはほとんど見られない。中でももっとも簡略な注記は、たとえば「二条后」を略して「二」、「紀有常のむすめ」を略して「有」、などと、ただ一文字だけを書き入れたものである。この種の注記は、所詮は略号であって、古注の内容全体をあらかじめある程度理解していなければ、その意味を正しく読み取ることができないはずである。また、書き入れ注とあわせて、伊勢物語講釈がおこなわれた月日と思われるものが書き入れられている写本も今回発見することができた。これまで、冷泉家流などの古注と伊勢物語講釈の関係はあまり考えられてこなかったが、これらの事実は、その問題に大きな手掛かりをもたらすものと考えられる。これら書き入れ注を持つ数多くの写本は、いったいなぜ、何のために作られたのか。これらの写本は、どのような伊勢物語享受の実態を語っているのか、次年度はそれらの問題をさらに追求していかねばならない。
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