1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610448
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Koka Women's University |
Principal Investigator |
山本 登朗 光華女子大学, 文学部, 教授 (40210538)
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Keywords | 伊勢物語 / 注釈 / 書き入れ / 写本 / 冷泉家流 / 鉄心斎文庫 |
Research Abstract |
今年度も昨年度に引き続き、まずは資料のさらなる収集と整理に力を尽くした結果、研究成果を論文などの形にまとめることは、最終年度である来年度に課題として繰り越すことになった。なお、今年度は、鉄心斎文庫所蔵の写本約三百点を調査し、書き入れを有する約十五点の伊勢物語写本の撮影をおこなった。 ただし、鉄心斎文庫の調査の過程で、同文庫が毎年2回おこなっている展示の第14回として「注入り伊勢物語の世界」というタイトルで、書き入れ注を有する古写本を集めた展示が、平成10年4月10日からおこなわれることになり、その図録(『鉄心斎文庫伊勢物語図録14』)の編集と解説および総論の執筆を山本が一任されることとなった。必ずしも学術的な刊行物ではないが、まとまった形の成果として紹介しておきたい。 書き入れ注を調べながら、いま、次のような視点を持つに至っている。 冷泉家流古注を書き入れた写本には、きわめて簡略な書き入れが、古注独特の、物語に登場する無名の人物に具体的な人物名をあてる注記を中心になされているものが多いが、それらの中には「別紙ニアリ」などの注記がしばしば見られ、独立した詳細な注釈書が、書き入れ本とセットになった形で添えられていたことがうかがわれる。ならばなぜ、別に注釈書があるのに、写本にまでわざわざ注記が書き入れられなければならなかったのか。物語の背後に実在していたはずの古注世界、すなわち小野小町や紀有常の娘などが活躍する世界を、それらの注は伊勢物語本文の背後に二重写しに重ねて、読者に示そうとしているのではないかと考えられるのである。書き入れ注については、それが写本全体の中でどんな機能を果たしているかという、いわば亨受者側からの問題も考えられなければならない。
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