1996 Fiscal Year Annual Research Report
エズラ・パウンドの「抽象」観に見られる「個別主義」の揺らぎ(文学における形式と社会意識)
Project/Area Number |
08610475
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長畑 明利 名古屋大学, 言語文化部, 助教授 (90208041)
|
Keywords | エズラ・パウンド / 抽象 |
Research Abstract |
本研究は、モダニズム期の最も重要なアメリカ詩人の一人であるエズラ・パウンドの詩と詩論(特に美術論)に見られる「個」の扱いと、1930年代以降ファシズムに向かうとされる彼の政治的言動との関連を、「抽象」という概念をキータームとして考察することを目的とした。平成8年度には、20世紀初頭の「抽象」論を整理し、パウンドの詩、評論(特に美術論)及び書簡を分析した。その結果、次のような知見を得た。すなわち、パウンドの「反抽象」の姿勢は、"Cavalcanti"、Guide to Kulchurその他の評論において顕著であるが、それは"I Gather the Limbs of Osiris"(1911-12)に見られる"Luminous Detail"の手法、あるいは、互いにつながりを持たぬ断片的事実(発言)の併置によって、独立した「個」のポリフォニ-を達成しようとするCantosのスタイルなどと深い関連性を持つものであり、そこには、「個」と「全体」の関係性のダイナミズムにおいて「個」の独立性を保持しようとするパウンドの姿勢が窺える。しかしその一方で、"Provincialism the Enemy"(1917)をはじめとする評論、ムッソリ-ニを賛同する文章などには、社会の秩序を維持し、芸術を庇護するために、個の集合体である大衆を制御する強大な権力を求める姿勢が明確に示される。このように、美学的領域と社会・政治的領域における「部分」(「個」)と「全体」の二項対立の扱いにおいて、パウンドの「個別主義」は著しい自己矛盾を露呈する。 今後、このような自己矛盾をもたらす時代背景の調査をさらに進め、研究の成果を口頭発表および論文の形で公開する予定である。
|