1998 Fiscal Year Annual Research Report
『パンチ』を中心にした英国ヴィクトリア朝期諷刺図像の文化的研究
Project/Area Number |
08610476
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
篠 三知雄 三重大学, 教育学部, 教授 (90019836)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮地 信弘 三重大学, 教育学部, 助教授 (30144223)
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Keywords | 『パンチ』 / 諷刺図像 / ヴィクトリア朝イギリス / ジョン・リーチ / 中流階級 / 父権 / ユーモア / 笑い |
Research Abstract |
前年度において研究代表者の篠は『パンチ』誌の創刊間もない時期の変貌・脱皮に関して、その背景と周辺事情について調査検討した。本年度はそれを受けて、作画面で『パンチ』に品格を与え、雑誌の社会的位置づけを明確にし、国民の大部分を構成する中流階級の居間にも浸透させ、女性を読者に取り込んだ立役者J.リーチ(1817-64)に焦点をあてて、その作品を分析した。彼の場合、政治経済等の諷刺戯画は必ずしも得意ではなかったが、それでも文筆面の編集者の支援を受けて、ヴイクトリア朝英国の政治経済を揶揄する優れた作品を残した。彼の得意分野は市民生活の諷刺にあり、恋愛・結婚・夫婦・子供・使用人・流行・旅行・スポーツ等の幅広い範囲で多数の作品を生み、多くの傑作を残した。彼は生活のさまざまな現象を鋭く観察し、その特質を明確にとらえて、作品化し、読者の共感を得た。特に彼は新しい時代の女性、使用人、子供の言動から諷刺的笑いを生む点で優れていた。それは『パンチ』誌が次第に中流階級の価値観に染まって保守化していくことの印であり、その保守化の傾向自体がヴイクトリア朝イギリスにおける父権的イデオロギーの、民衆的次元における発現であると考えられる旨の結論を抱いた。 研究協力者の宮地は、今年度はヨーロッパの諷刺図像そのものに焦点をあてて、その特質・手法・歴史等を概観した。その概観の過程で、『パンチ』誌は18世紀イギリスの代表的カリカチュアリストであるホガースやギルレイの影響をうけつつも、次第に保守的な傾向が目立ってくること、そしてそれは『パンチ』誌そのものが、中産階級の価値観の擁護に立ち、必ずしも諷刺の機能を十分に果たしていないことを確認した。
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