1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610478
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮内 弘 京都大学, 文学研究科, 助教授 (90047407)
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Keywords | ラ-キン / 英詩 / 文体 / 言語 / 二重性 / 分析 / 批評 / クロスリーディング |
Research Abstract |
本年度はこれまでの研究を『英詩の文体論批評-イェイツとラ-キンを中心に』として一冊にまとめることができた。このため当初に予定していた計画を次年度に繰り越さなければならない部分もできた。この本ではシェイクスピアの『ソネット集』を除いてイェイツ、ラ-キン、ティラン・トマス、T.S.エリオットによる20世紀の詩を扱っている。これらの論考に共通していえることは、テクストの精読を通して作品に迫ろうとしていることである。またいくつかの論考では従来の批評とは異なる視点を持ち込むことによって、これまで見過ごされていたテクストの緊密な内部構造の一端を明らかにしようと試みている。特にラ-キンの場合には伝記的側面が重要な意味をもつため、それを考慮に入れて作品を分析している。また今年の目標に揚げたように、ラ-キンの詩にみられる単語や、詩型などを詳細に分析することによってラ-キン的特質の一部を明らかにできたのではないかと思う。また論文「ラ-キン的二重性」では「結婚の風」と「アランデルの墓」を論じ、以下のことを指摘した。これらの詩の中で使われている‘ravel'は「もつれさせる」と「ほどく」という全く反対の意味を同時に内包するめずらしい単語で、この詩のテーマと同じ構造を有している。このような相反する二重の意味をその詩全体にまでおしひろげていく手法が「アランデルの墓」においてもみられる。伯爵夫妻が仲良く手をとりながら横たわっている(‘lie')彫像を見て、詩人はふと、実際は仲が良くないのに、嘘をついている(‘lie')のではないかという疑念を抱く。このように複雑な男女の仲の二面性が‘lie'ということばの二重性を媒介にしてみごとに描き出されている。 今年度は以上述べたような成果をだすことができ充実した年であった。
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[Publications] 宮内 弘: "ラ-キン的二重性" 英文学春秋. 1巻1号. 23-50 (1997)
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[Publications] 宮内 弘: "英詩の文体論批評-イェイツ・ラ-キンを中心に" 京都大学学術出版会, V+348 (1998)