1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610480
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中村 裕英 広島大学, 総合科学部, 助教授 (60172433)
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Keywords | イギリス文学 / 女性 / 主体 / 近代初期 / シェイクスピア |
Research Abstract |
中村は、英国近代初期に書かれたRachel SpeghtのA Mouzell for Melastomus (1617)というパンフレットを中心に、女性の主体について研究を進めた。このパンフレットはJoseph Swetnamが書いた女性嫌悪のパンフレットに対する反論である。Speghtのパンフレットは、当時の女性が男性と平等な主体を形成するための戦術がどのようなものであったかを、如実に示している。当時の女性の劣等性は、「アダムは欺かれなかったが、イブは欺かれ、イブが罪を犯した」(I Tim. ii. 14)、「男が女に触れないのは善いことだ」(I Cor. vii. 1)などの聖書の言葉を基礎にして論じられていたが、女性が自己の自律的な主体を主張するときには、まさにそうした宗教的権威を再解釈し、さらには女性に好意的な別の聖書の箇所を引用することによって達成されていることが明らかになった。例えば、男が(アダムも男性である)欺かれないというのは神の意志ではなかった。だからパウロは「アダムにおいてすべての人が死に、キリストにおいてすべての人が生き返る」(I Cor. XV. 22)という聖書の言葉を引用して反論する。さらに女性の優越性も同様な戦略で主張される。例えば、女は、足でも頭でもなく、身体の中間にある肋骨から造られているので、その地位は中程にあり、しかも卑しい塵からではなく″refined mould″から造られたので、男性よりも勝っていると主張される。こうした女性の主体の表象は当時のピューリタニズムの与えた積極的な一面であるが、そこには次第に男性に有利なイデオロギーを浸食して、女性特有の思想を形成しようとする、英国近代初期の多くの知的女性たちの働きが認められる。それは今日の批評の変化に伴って次第に明らかにされていることであるが、その一端を「『オセロ』と文学批評」で扱った。今後は研究対象を広げ、そこで選られる洞察を、当時の思想の歴史的な変化の中で位置づける予定である。資料の収集は、多数の図書を購入したり、日本の幾つかの研究機関で行なっているが、まだ十分と言える状況ではない。
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Research Products
(1 results)