1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08610534
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大澤 吉博 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (00107418)
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Keywords | 翻訳論 / 福沢諭吉 / 言文一致 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度に引き続き、福沢諭吉における文体形成について調べた。とくに福沢の行なった翻訳を検討し、その訳文を原文と照合することで、福沢の文体がいかなるものであり、それが現代の翻訳とどれほどの差異をもったものであるかを吟味した。また福沢は明治初期に画期的な、伝統破壊的な文章のスタイルを作りだし、それ以後の学術的文章に一つの型を示した人ではあるが、「言文一致」の文章にはそれほど親しみを感じていたようには思われない。ただし、彼の『福翁自伝』は口述筆記ということもあり、福沢の作品としては珍しく、文章語としての口語文で書かれている。福沢の口述筆記原稿(マイクロフィルム版で購入済み)を見れば、福沢がいかに口述筆記を基礎として、話し言葉を文章語に変換しているかが理解できる。その作業はまだ終わっていないが、その中間報告は、1997年10月31日に北京大学で行われた「東アジア比較文学史」会議で「福沢諭吉における文体の発見」の形で行なった。この作業はもうすぐ終了するので、その時には、より確定的なことが言えるものと思われる。 そうした基礎的な、日本近代文体成立過程を、現在のところは、調査しているので、そうした基礎の上に構築されるべき、日本文学の他言語による翻訳の問題は当面大きな進捗を見せていないが、これも福沢における文体確立の問題に解答がでれば、大きな進展を見るはずである。すでに昨年度の研究発表論文で一部触れた、川端康成における曖昧さ、三島由紀夫におけるメタファーといった文体的要素がいかに他言語翻訳に反映されるかについては、近日中に発表する予定である。
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