1998 Fiscal Year Annual Research Report
立憲政の比較法文化史的研究-ロシアと西洋における主権と所有
Project/Area Number |
08620015
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大江 泰一郎 静岡大学, 人文学部, 教授 (00097221)
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Keywords | 法文化 / ロシア / 社会主義 / 帝国 / 外国法の継受 / 主権 / 所有権 / 立憲主義 |
Research Abstract |
研究課題にかかる本年度の研究実績は、主として以下の3方面にわたる: (1) ロシアと西欧における法観念の歴史: ロシアは地理学的には(とくにその政治的中心部の位置からして)ヨーロッパに属するにもかかわらず、文化遺産の面ではラテン文化(ユスティニアヌス法典とくにその学説彙纂とローマ=ラテン教会のキリスト教)と分岐し、社会構造の面では原初的な封建制を崩壊させたため、西洋的なレヒト(権利=法)的法観念の発展の道が閉ざされたこと、それに代わって「行政の法」(権力の命令としての法)の観念が形成され定着し、ソビエト時代にはそれが「義務としての法」という形姿をとるようになったことを、歴史的に明らかにした。 (2) ロシアと西洋における訴訟の比較史: ロシアにおいて歴史的に形成された「行政の法」が、訴訟制度としては糺問的・職権的な構造を特徴とし、法秩序の構造としては<行政の一環としての司法>を生み出し、今さかのぼって分析した。これは、「行政の法」がじつは広大な非法的空間(法外秩序)を基盤とすることを明らかにすることに役立った。 (3) ロシアと西洋における主権と所有 公法と私法とにまたがる法秩序の構造全体を把握するために、西洋については、近代法における主権と所有権の有機的連関を1789年フランス人権宣言16条の論理(「権利の保障」と「権力分立」)から理解しつつ、その国制史的な起点を中世のdominiumに求めるとともに、ロシアがとりわけ15世紀以降このdominiumにかかわる社会構造を欠くようになり、またそれを観念的に造型する文化伝統と切断されたため、ここでは西洋的な意味での「主権」原理と近代的「所有権」制度が形成されず、社会主義崩壊後の今日にその課題を残していることを明らかにした。
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[Publications] 大江泰一郎: "ロシアにおける司法改革の課題-裁判所が司法機関になるための条件をめぐって" 『第2期エリツィン政権下のロシアの立法動向』(外務省欧亜局ロシア課). 1-19 (1998)
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[Publications] 大江泰一郎: "ロシア史における訴訟と社会秩序" 『歴史学研究』. 717号. 47-58 (1998)
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[Publications] 大江泰一郎: "ポスト社会主義の法理論" 『民主化と市場経済化の状況下におけるロシアの立法動向』日本国際問題研究所. 1-21 (1999)
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[Publications] 大江泰一郎: "法と秩序の歴史的構造-ロシアと西洋" 『(静岡大学)法政研究』. 3巻3=4号. 109-119 (1999)
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[Publications] 大江泰一郎: "ロシアの法文化-その歴史的構造" 『比較法研究』. 60号. 75-86 (1999)
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[Publications] 大江泰一郎(共著): "『体制転換期ロシアの法改革』" 法律文化社, 353 (1998)
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[Publications] 大江泰一郎(共著): "『憲法の歴史と比較』" 日本評論社, 471 (1998)