1998 Fiscal Year Annual Research Report
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08630061
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Research Institution | KOBE UNIVERSITY |
Principal Investigator |
石黒 馨 神戸大学, 経済学部, 教授 (20184509)
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Keywords | 国際通貨 / 通貨権力 / 覇権システム |
Research Abstract |
本年は、本研究の最終年度であり、これまでの研究を「覇権協調の国際政治経済学」という体系の中に位置づける作業を行った。その成果は、勁草書房から上梓した『国際政治経済の理論-覇権協調論の構想-』(1998年)の第5章と第6章として収めた。 第5章「覇権協調下の対外通貨政策の信頼性」は、覇権国と非覇権国の通貨権力と情報の非対称性という点から覇権協調の国際通貨モデルを構成し、覇権国の対外通貨政策の信頼性について検討している。従来の覇権安定論では、非覇権国の役割は明確ではなかった。本章では、非覇権国のインセンティブを明示的に考慮し、覇権国の対外通貨政策が非覇権国や民間経済主体に信頼されるための条件について明らかにしている。国際通貨の安定を重視する外向きの覇権国と国内経済の安定を重視する内向きの覇権国の為替レートの政策目標の相違が大きいほど、覇権国の対外通貨政策が信頼されることを示した。本章の覇権協調のモデルは、覇権国と非覇権国の戦略が連続して存在する不完備情報下の1回限りの非協力ゲームである。 第6章「覇権協調下の国際通貨の変動」は、第5章と基本的に同じ覇権協調の国際通貨モデルを構成し、覇権国の政策運営が国際通貨の変動に与える影響について検討した。本章のモデルは、覇権国のタイプが連続的に分布する不完備情報下の2回繰り返しゲームである。本章では、内向きの覇権国も外向きの覇権国も、初期にはその真の政策選好とは異なり国際通貨を過大に誘導し、その後真の政策選好にもとづいて国際通貨を下落させる可能性があることを示した。また、覇権後退期における覇権国と非覇権国との国際協調が、内向きの覇権国によって阻害される可能性があることを明らかにした。
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[Publications] 石黒 馨: "覇権安定論の批判と課題" 関下稔・石黒馨・関寛治編『現代の国際政治経済学』法律文化社. 23-38 (1998)
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[Publications] 石黒 馨: "国際政治経済の理論-覇権協調論の構想-" 勁草書房, 222 (1998)