Research Abstract |
本年度は,「研究目的」(1) を達成するための「研究実施計画」1)と2)を,ほぼ実施しえた。 この研究によって得られた新たな知見は,一言でいえば,アイルランド自治問題の経済史的=財政史的背景として,グレートブリテンとアイルランド間での財政問題について,次のような決定的な史実を,確認しえたことである。 すなわち,アイルランドは,(1)従来,1816年に国庫の点でもグレートブリテンに統合されて以来,財政的にも収奪されてきた(因みに,1896年の「グレートブリテンとアイルランド間財政関係調査勅命委員会」の『最終報告書』によると,「アイルランドの実際の税収入はグレートブリテンのそれの11分の1であるとしても,アイルランドの相対的担税力は非常により小さく,20分の1を超えるとは見做しえない」)のであるが,(2)1912年の「アイルランド財政調査委員会」の『報告書』によると,その後,次第に国庫からの支出額が増大し,1895年度には,アイルランドからの税収額が約2,000,000ポンドだけなお多かったのに対して,「1910年度におけるアイルランドへの支出はアイルランドからの「本当の」税収入を1,000,000ポンド以上だけ凌駕した」こと。このようにアイルランドが,グレートブリテンにとって財政的収奪の対象たる地位から,今や財政的負担の対象に転化するに至ったことを数量的に確定しえた。 今後は,「研究目的」(2)を達成するため,このような財政問題に対する政策的対応を,歴史・具体的に検討し,地方財政問題⇒国家財政問題⇒統治問題という序列で,アイルランド自治問題の経済史的=財政史的背景に加えて,更にその財政史的=国制史的意義を解明していく予定である。
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