1996 Fiscal Year Annual Research Report
フランスにおける労働時間短縮と余暇に関する史的研究
Project/Area Number |
08630073
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣田 功 東京大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (90055236)
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Keywords | 余暇 / 現代的余暇理念 / 8時間労働制 / 生産力主義 / 余暇の組織化 / パテルナリスム / 年次有給休暇 / 民間非営利団体 |
Research Abstract |
現代余暇史研究のパイオニアであるクロスG.Crossの二つの著作(A Quest for Time,1989;Time and Money,the Making of Consumer Society,1993)を中心に、余暇史研究の意義と方法について検討した。そこから以下のような課題が導かれた。(1)いつ、どのようにして、労働と余暇(自由時間)の配分が変化したか。「工業化のtrade-off」として余暇を把える通説は実証に耐えない。19世紀末に出現する労働と余暇の新しい倫理は、工業化・近代化によって一義的に説明できず、労働運動、エリートの社会改革、国家の政策、経営者の態度などの検討を中心にした政治史、社会史、経済史、文化史などの複眼的視点を総合する必要がある。(2)現代的余暇理念の画期としての8時間労働制。新しい労働=余暇理念にとって1880年代に起源を持ち第一次大戦後に実現された8時間労働が決定的意義を持った。その際、時間短縮の効果として、雇用増加(いわゆるワーク・シェアリング論)、生産性上昇と技術革新の刺激(いわゆる生産力主義)、消費の刺激が指摘されたが、力点は国によって顕著な違いを示した。(3)第一次大戦後の8時間労働の制度化は、余暇問題の新たな局面を開いた。8時間制は労働者にとって余暇を現実のものとしたが、それとともに余暇をいかに過ごすかという問題が新たに登場し、余暇の合理的な活用を説く「余暇の組織化」の課題が登場した。それに伴って余暇利用をめぐる労使対立という問題が表面化し、企業福利政策の強化を説くパテルナリスムの発展と労働運動の余暇活動の組織化を促した。(4)両大戦間、とくに30年代には国際的に年次有給休暇の制度化が進展した。それは「余暇の組織化」の問題の新たな展開を示した。国家は新たな活動を要求されたが、同時に、ファシズム体制と民主主義体制の違いを中心に、国家と民間非営利団体の役割、両者の関係には大きな違いが見られた。
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