Research Abstract |
本研究では,まず第1に,日本型マネジメントの特徴を確認した。典型的日本企業では責任会計は動機付けにおいて欧米企業ほど重要な働きを果たしていないとされてきた。しかし,京セラのように広い意味での管理会計によって日々の採算性をモニターしている例もみられる。日本企業では,長期雇用を前提とした配置転換や人脈による「価値・情報の共有」によるコントロールが基本にある。報酬にしても結果よりもプロセス,「能力考課」「態度,意欲考課」によって長期的に決まる昇進に依存する割合が高い。これは協調と長期的競争のバランスによるコントロールを意味している。これに対し,豊かな労働市場の存在や短期的競争が普通の欧米では,これと逆の方法をとることが多い。本研究の基本的視点は日本型システムの長所を維持しながら弱点を克服する方法を考察することである。第2に,組織を活性化するためには組織を細分化して「自律性」をもたせ「責任」を明確化することが重要である。自律性と同時に事業間に横串をさす,いわば調整機構も必要である。ミニ・プロフィットセンターやカンパニ-制のねらいの一つはそこにある。事業カンパニ-と同時に地域カンパニ-を設けることや情報化がこれである。また,職能横断的チーム組織を設定したり,プロダクト・マネージャーのような調整役を置く方法がとられている。有機的組織には種々の形態があり,そこでの調整のために管理会計が果たしている役割を明らかにしようと試みた。予算数値の使い方,社内資本金制度,本社費・共通費の配賦等,断片的には明らかになったが,管理会計とその他のマネジメント・コントロールの構成要素との関係の解明は今後の研究課題である。第3に,職能横断的組織の一例として,研究開発組織を研究対象としてとりあげた。しかしチーム組織といっても日本と欧米ではかなり大きな相違があり,日本だけ,それも数社をみたかぎりでも,かなり大きな違いのあることが判明した。新薬ができるまでに長期間を要する製薬業では研究開発管理に独特の特徴がある。研究者の活性化の手段としては,欧米流の個人の業績評価に基づいた金銭的報酬,リサーチ・フェロ-の制度,異質な人材,学会での評価,評価方法にしても特許・論文等,さまざまである。これらのうちのどれを重視するかは企業により相違する。第4に,海外進出に伴い,グローバルレベルでの親会社による関連会社のコントロールが問題となる。本社費の一つである研究開発費を関連会社へどのような名目で負担させるべきか。これに関しては,各国の移転価格税制に関わる。この問題も含めた研究開発費管理は今後の研究課題である。
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