Research Abstract |
自然状態において,無節サンゴモは,草食動物による補食や,他の藻類との生息空間をめぐる競争に直面しているにもかかわらず,全世界の浅海域に広く分布し,繁栄している.したがって,無節サンゴモには,これらのストレスに対し,藻体を防御・維持する機構が備わっていると考えられる.そこで,我々は無節サンゴモの藻体が傷ついた際の藻体修復の機構・様式について,経時的観察を行った. 実験に用いた無節サンゴモは沖縄県石垣島川平湾に生育する枝状種のヒライボ(Litho-phyllum pallescens)である.採集したヒライボの個体は,水槽中で数日間飼育後,6個体のヒライボからほぼ同一形状の枝を採取し,水中用接着剤で塩ビ板に固定した.これに,水平な傷と垂直な傷をつけ,水槽に置き,以後14日間1日間隔で回収した.回収した試料は,10%ホルマリンで固定し,脱灰・パラフィン包理後,連続切片を作製した. その結果,以下の点が明らかとなった. (1)水平な傷の修復の際には,傷口に対して垂直方向に再生部が形成されてゆく場合と,傷口の縁辺部より水平方向に再生部が伸びてゆく場合とがある.前者の場合,傷つけられた細胞の数層下の細胞が介在分裂細胞(intercalary meristematic cells)となり,その下に細胞が再生され,次いで上に表層細胞が形成される(monomerousな藻体形成).ただし,表層細胞が先行して形成される場合もある.新たに形成された表層細胞の上部に位置する細胞群は,やがて壊死部として藻体から剥離するが,この際,剥離されるべき細胞群下には複数層の表層細胞の形成がみられることがある.後者の場合,再生部は側方と上方に伸長してゆく2群の細胞糸によって藻体が形成される(dimerousな藻体形成). (2)垂直な傷の修復の場合には,傷の縁辺部・側面部と底面とに新たな細胞群の形成が認められる.傷の縁辺部・側面部ではdimerousな藻体形成が認められる.底面では水平な傷と同様に2つの様式の修復過程がみられる. 今後,これらの観察事実の進化古生物学的意義を考察する予定である.
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