1996 Fiscal Year Annual Research Report
海洋における溶存鉄濃度を支配する因子としての天然有機リガンドの存在とその起源
Project/Area Number |
08640617
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
久万 健志 北海道大学, 水産学部, 講師 (30205158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志賀 直信 北海道大学, 水産学部, 講師 (30091466)
澤辺 智雄 北海道大学, 水産学部, 助手 (30241376)
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Keywords | 海水 / 含水酸化鉄 / 溶解度 / 溶存有機鉄錯体 / 有機リガンド / 植物プランクトン / 海産性バクテリア / 生物生産 |
Research Abstract |
1、(1)紫外線を照射して有機物を除去した海水の含水酸化鉄の溶解度(20℃)は、天然海水に比べ著しく低く、その値は【less than or equal】0.1nMであった。(2)含水酸化鉄の溶解度の高い沿岸水(天然有機リガンドを含む)と紫外線を照射して得られた溶解度の低い沿岸水(有機リガンドを除去した)における沿岸性植物プランクトン(珪藻)の鉄添加増殖実験から、紫外線を照射した海水ではその増殖速度は遅くなる。このことは、天然海水に存在する有機リガンドが溶存鉄濃度を高め、より生物に使われやすい溶存形態になっていると思われる。2、(1)北海道噴火湾でのスプリングブルーム前の鉛直混合期(2月上旬)には、海水における含水酸化鉄の溶解度は低く、ほぼ一定値(0.2-0.3nM)を示した。しかしながら、ブルーム最盛期(3月中旬)には20m以浅で最大値(0.7-0.8nM)に達し、ブルーム終了後においても高い溶解度が維持された。これは、植物プランクトン、バクテリア等から放出された有機リガンドによるものと推察され、藻類による鉄の取り込みに重要な影響を与えていると考えられる。しかしながら、溶解度とクロロフィル-a濃度とは必ずしも相関性がなく、すべての植物プランクトンが有機リガンドを放出しているとは考えられない。(2)ブルーム前後における珪藻類優占種の変動は、ブルーム前から最盛期(2月〜3月中旬)にかけてThalassiosira nordenskioldiiが最も優占し、最盛期以降(3月中旬以降)にChaetoceros compressumやChaetoceros concavicorneに遷移した。このことは、ある種の植物プランクトンが有機リガンドを放出している可能性を示している。またある種の海産性バクテリアにもシドロフォアのような有機リガンドを放出することが確認された。以上の結果から、沿岸海水には3価鉄と溶存有機鉄錯体を形成する有機リガンドが存在しており、沿岸域での生物生産に重要な役割を果たしていると
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