Research Abstract |
(第1章)食用キノコ,トキイロヒラタケの色素タンパク質の(1)アミノ酸分析(17種のアミノ酸から構成),(2)糖鎖分析(ガラクトースからなる糖鎖を含む),(3)電気泳動(SDS-PAGE),(4)MALDI/TOF-MS,(5)蛍光X線分析,(6)ICP(Inductively Coupled Plasma),(7)再構成実験から,この色素タンパク質は(a)金属(FeあるいはZn)を介した色素(Indolone)と糖タンパク質との結合体(天然超分子)であること,(b)分子量25200と23700の両タンパク質[内一方(23700)が色素と結合]からなるヘテロダイマーであることが明らかとなった。さらに,分子量23700のタンパク質部分のみの単結晶X線構造解析の結果から,7本のα-ヘリックス構造を有することも判明した。この色素タンパク質の水溶液をタングステン電球(45W)で光照射するとO_2が発生が認められた。15回ほど間欠照射してもO_2の発生は明らかに認められたが,色素をとった糖タンパク質だけではO_2の発生はまったく認められなかった。次に,暗反応をHPLCで追跡した。本キノコから色素タンパク質を抽出した新鮮な水溶液にCO_2飽和し,光照射するとHPLC(カラム:Shim-pack SCR-10SH)からピルビン酸の生成が顕著に認められ,また,CO_2に由来するシュウ酸の生成のほか,他のカルボン酸の生成も認められた。カラムをASAHIPAK・GS-320HQに変えると色素タンパク質,ATP(ADP),NADPH(NADP)と共に17種のアミノ酸および光合成の前駆体として重要なglucose,glucose-6-phosphate,fructose-6-phosphate,ribulose-1,5-bisphosphateおよび3-phosphoglycerateの生成が認められ,これらの生成スキームについても検討を加えた。 光合成で生じる17種のアミノ酸が本キノコのタンパク質のアミノ酸分析結果と一致することから,これらのアミノ酸は最終的にはタンパク質に誘導されるものと結論される。 (第2章)我々は,新しい光合成色素,インドロン(1)の化学合成を目的とした研究の展開中に,まず構造の類似したイサチン(2)が,どのようにα-CyDに認識され,水溶性イサチン/α-CyD包接体を構築するかに興味をもち検討したところ,インドロン/α-CyD包接体と同様,安定な水溶性包接体が効率的に得られた。得られた包接体の構造は,元素分析,比旋光度,電子スペクトル,CD,IR,^1H-および^<13>C-NMRスペクトルを測定し,それらの解析結果から確認した。なお,電子スペクトルデータの解析結果は,インドロン/α-CyD包接体の方がイサチン/α-CyD包接体よりもより強い電荷移動相互作用があることを示唆した。 次に,先に我々は,発茸三日目のトキイロヒラタケの細胞内物質として新規有機三リン酸塩のMagnesium 1-Benzoyloxy-2-mercaptopropane-3-triphosphate(A)を見い出している。そこで,今回我々は,このAが本キノコの菌糸生育から子実体形成および成長にかけて,何らかの生物活性をもつのではないかと考え,このAの化学合成を目的とした研究の展開中に,まず構造の類似した水溶性の1-Benzoylglycerol (3)を合成し(収率36.4%),さらに本キノコに対する生物活性についても鋭意検討したところ,すこぶる発茸および成長を促進させる効果があることを見い出した。なお,この化合物3は新規であり,また,この生体分子メカニズムについては大変興味がもたれ,現在鋭意検討中である。
|