1997 Fiscal Year Annual Research Report
フェロモンの記憶に関わるシナプス可塑性についての形態学的解析
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08640852
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute for Neuroscience |
Principal Investigator |
市川 眞澄 (財)東京都神経科学総合研究所, 解剖発生学研究部門, 主任研究員 (20124414)
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Keywords | 鋤鼻神経 / 副嗅球 / 僧帽細胞 / 顆粒細胞 / 嗅覚 / 相反シナプス / 電子顕微鏡 |
Research Abstract |
シナプスの可塑性は脳の高次機能である記憶学習の構造的基礎と考えられているが、その確たる証拠は示されていない。雌マウスは交尾相手のフェロモンを記憶することによって、妊娠を保証する。またその記憶の座が鋤鼻系の副嗅球にある。この記憶は交尾後30-50日間保持される。この記憶部位である副嗅球である。そこで、交尾後のフェロモン記憶保持期および消去期におこるシナプスの可塑的変化を形態学的に解析することにより、シナプスの形態学的変化と記憶の機構との関連を明らかにすることを試みた。 雌マウスをフェロモン記憶群と対照群に分け、各群の動物から、副嗅球の電子顕微鏡用標本を作製し、シナプスを観察した。鋤鼻神経は糸球体で僧帽細胞と興奮性シナプスを形成する。鋤鼻神経の伝達物質はグルタミン酸といわれている。また僧帽細胞と顆粒細胞は樹状突起間で相反シナプスを形成する。僧帽細胞から顆粒細胞の方向性を有する興奮性シナプスと顆粒細胞から僧帽細胞への方向性を有する抑制性シナプスが隣接して存在するというシナプスである。僧帽細胞の樹状突起に興奮が生じた際に、その興奮は相反シナプスのうち興奮性シナプスを介して顆粒細胞に伝えられる。顆粒細胞の興奮は相反シナプスの抑制性シナプスを介して即座に僧帽細胞を抑制すると推定されている。そこで、副嗅球の糸球体シナプスと相反シナプスの形態、サイズ、を定量的に計測した結果、相反シナプスの興奮性シナプスが記憶マウス群で有意におおきくなっていることが明らかになった。この結果、僧帽細胞が自らの興奮を短時間で抑制するというフィードバック機能を高めている、形態学的証拠であるといえる。つまり、同種のフェロモンが受容されたときに限り、フェロモン情報を中枢に送ることをブロックする。これが、雌マウスのフェロモン記憶機構である。この機構により雌マウスは妊娠維持できる。
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[Publications] Matsuoka M, Kaba H, Mori Y, Ichikawa M: "Synaptic plasticity in olfactory memory formation in female mice" NeuroReport. 8. 2501-2504 (1997)
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[Publications] Matsuoka M, Mori Y, Ichikawa M: "Morphological changes of synapses induced by urinary stimulation in the hamster accessory olfactory bulb." Synapse. 28. 160-166. (1998)