Research Abstract |
有機溶剤の代謝速度はアルコールの摂取によって影響を受けることがわかっている.このことは混合有機溶剤の曝露を受けた作業者の尿中代謝物の量から曝露の程度を把握しようとする場合,単独曝露に基づくデータを用いて評価を行うと誤りをおかす危険性があることを示唆している.また,現在の混合有機溶剤の許容濃度は,生体影響が相加的と仮定して評価するようになっている.しかし,実際は相加的ではない場合が多いと推測される.そこで,平成8年度にはメタノールおよびトルエン系について,単一成分およびこれらの混合蒸気を小動物(ラット)に吸入曝露し,共存物質の代謝に与える影響について検討した.曝露は1回6時間とし,曝露終了後,ラットを代謝ケージに移して尿を採取し,メタノール,トルエンの代表的代謝物である蟻酸および馬尿酸量を経時的に測定した.また,血液を尾部から採取し,血中の有機溶剤濃度を測定した.2つの成分の濃度を系統的に変えてそれぞれの代謝物の濃度を測定した結果,曝露直後の尿中馬尿酸の排泄速度は混合曝露の方が単独曝露に比較すると大きかったこと,また,血中トルエン濃度の半減期は混合曝露の方が有意に短かったことから,メタノールの共存によりトルエンの代謝が亢進されることが示唆された.一方,血中メタノール濃度および尿中蟻酸排泄速度については,混合曝露と単独曝露との間に有意差は認められなかった.平成9年度は,メチルエチルケトン(MEK)-トルエン系について同様に実験を行った.血中MEK濃度の半減期は,混合曝露,単独曝露とも2.7時間で,差は認められなかったが,血中トルエンについては,単独曝露よりも混合曝露の方が半減期は長く,MEKの共存によってトルエン代謝が抑制されていることが示唆された. 反復曝露を受ける場合,酵素誘導により,単回曝露の場合とは代謝速度が異なる可能性がある.そこで,メタノールートルエン系およびMEK-トルエン系について,それぞれ1日6時間,週5日,1ヶ月の吸入曝露を行い,単回曝露の場合と比較検討した.
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