Research Abstract |
胸鎖関節と顎関節との形態的類似性に着目し,顎関節の機能回復のための胸鎖関節円板の移植の可能性を肉眼解剖学的および細胞組織化学的立場から検討した。 肉眼解剖的検索についてはX線ならびにマクロ解剖学的手法を用い,ヒトの胸鎖関節について骨性形態,関節靱帯,関節円板の形態を観察した。骨形態は(1)convex,(2)straight,(3)concave,(4)wave,(5)mixed,(6)with suprasternal boneの6型に分類された.関節靱帯は,前胸鎖靱帯,後胸鎖靱帯,鎖骨間靱帯が認められ,前胸鎖靱帯の走行に比べ,後胸鎖靱帯の走行は不明瞭であった.肋鎖靱帯に関しては,教科書に記載されているような走行の確認は,比較的困難であった.また,関節円板の形態は,1型:均一に厚いもの,2型:周囲が厚く中央部が薄いもの,3型:中央部に穴のあるもの,4型:その他の4型に分類することができた.以上のことから,胸鎖関節の形態学的特徴には,顎関節と類似する点が多いことが明らかになった. 細胞組織化学的検索についてはコラーゲン,フィブロネクチン,ラミニン,テネイシンなどの細胞外基質が骨,関節円板,滑膜などにおいて各分子種ごとに特徴ある局在性が認められたことから,正常な機能を営む関節における細胞外基質の作用に関する知見ならびに顎関節への胸鎖関節円板の移植のための基礎的知見が得られた。 これらのことから,胸鎖関節円板の移植に関しては,術前に十分な診査を行い形態的な個体差を把握した上で細胞外基質の作用を考慮し,それを応用することによって健常側の一部の円板部を顎関節部に正着させることが可能と考えられた.
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