Research Abstract |
腹部大動脈瘤人工血管置換術などの大動脈遮断を必要とする手術では,大動脈遮断解除に伴う急激な血行動態の変動が麻酔・手術中管理を困難なものとしている.遮断解除時には,急激な左室前負荷,後負荷の低下とともに肺動脈圧上昇が起こり心機能低下を招く.遮断解除後の低血圧に対する容量負荷による治療は肺高血圧に対しては悪影響を及ぼす.また,肺高血圧に対するニトログリセリンやプロスタグランディンなどの血管拡張薬を用いた治療は,肺血管抵抗の低下とともに体血管抵抗も低下させ低血圧を助長する.これに対し一酸化窒素(NO)は強力な血管拡張作用を持ち,その吸入は体血管には作用せず肺血管のみを拡張させることが期待される.以上のことより大動脈遮断解除における心室挙動とNO吸入療法の効果について検討した. 雑種成犬を対象とし,大動脈遮断・解除のみを施行した群(I群,n=7),大動脈遮断前10mL/kgの容量負荷を施行した群(II群,n=8),大動脈遮断解除前より一酸化窒素(NO)吸入(20ppm)を施行した群(III群,n=8),NO吸入(40ppm)を施行した群(IV群,n=6)の4群で検討を行った.全例,麻酔導入後PaCO2の値が約40mmHgとなるよう人工呼吸を行った.前足動脈に観血的動脈圧ライン,外頚静脈から肺動脈カテーテルを挿入した.開胸後,横隔膜直上にて大動脈を遮断可能にし,各群において大動脈遮断前,遮断解除前,遮断解除後5分,15分,30分,60分で各種血行動態を測定した. 肺動脈圧はI-III群で遮断解除後5分には遮断解除前に比べ上昇した(I群16mmHg→22mmHg,II群18mmHg→29mmHg,III群14mmHg→21mmHg)が,IV群では上昇しなかった.遮断解除後15分以降,肺動脈圧はI,III群でほぼ遮断解除前の直に戻ったが,II群では他の群より高い傾向がみられた.経食道心エコー図法でえられる拡張早期流入波はI,III群で遮断解除後低下した.以上の結果より,遮断解除後の肺高血圧を20ppmのNO吸入は抑制しないが40ppmでは抑制しうることが推察された.
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