Research Abstract |
本研究では,下顎の位置の違いが体調節機構,特に平衡調節に影響を与えるか否かについて重心動揺を測定し,検討した. 対象者は,全身的な疾患がなく,口腔内,顎関節及び頭頚部の諸筋群などに自覚的,他覚的に異常を認めず,耳鼻科的な疾患の無い年齢25歳〜32歳の男性4名である. 重心動揺の計測は,重心動揺分析システム,アニマ社製G-5500 GRAVI ANALYZER Ver.2.03Bを用いて測定,分析を行った.測定条件は,日本平衡神経科学会による平衡機能検査法に準じた. その結果,下顎咬合位と下顎安静位とで,重心動揺が大きく変化する場合と,ほとんど変化しない場合とがあり,一定の傾向は見いだせなかった.さらにその変化量は,健常者の測定から求められた,平均値と標準偏差から,2S.D.を越えて変化することはほとんどなかった.今回の下顎位を変化させたことによる測定結果の差は,上下顎の歯の接触状態が異なることによる歯根膜からの求心性信号の有無,閉口筋,開口筋の活動の違いによる筋紡錘からの求心性信号の違い,さらに下顎頭の位置の違いによる固有受容器からの信号の違いなどによるものと考えられる. また,本研究で設定した下顎位の変化量は,過去の報告などと比較すると微小であり,変化させる時間も短時間なため重心動揺に大きな変化が現れなかったとも考えられる.このことは,下顎位の変化が平衡調節機構に影響しないのではなく,微小な下顎の位置変化については,他の平衡調節機構が補償する形であったとも考えられる.今後,測定条件を変えさらに検討していく必要があると考えている.
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