Research Abstract |
矯正治療中には装置周囲が刷掃不十分となるためう蝕リスクが増加し,エナメル質う蝕を生じることが多い.これを防止するため,矯正用のバンドやブラケットの接着にはフッ素を含有する接着剤が多用されるようになった.特にグラスアイオノマーセメントはフッ素徐放性能を有するばかりでなく,洗口など外部応用のフッ化物からフッ素をチャージアップし再放出するという特異な性質を発揮し,長期的なフッ素供給装置として注目されている. 一方,う蝕の進行過程においては、唾液と歯質界面での無機質(CaやP)の移動による脱灰と再石灰化が繰り返し行われ,フッ素の存在によって再石灰化が増強されることが知られている. 今回の研究の目的は,矯正用フッ素徐放性歯科材料からのフッ素放出,チャージアップ能とこれにおよぼす要因を検討することである. 下記に示すフッ素徐放性歯科材料を被験材とした. 1,Multicure-Glass ionomer Band Cement(MGBC,光重合型矯正用接着剤,3M) 2,Fuji Lute Cement(FLC,合着用グラスアイオノマーセメント,GC) 各材料から円盤状の試料を作製し,ただちに2mlの脱イオン水入りのプラスチックビーカー中に37℃で静置保存した.試料作製から1,2,3,4,7,14日経過後,新しいプラスチックビーカー(2ml脱イオン水入り)と交換した.最終保存終了後,ただちに2種類のNaF溶液(2,0.02%)に浸漬(各々3,6分間)した後,先と同様の方法で貯蔵液の交換を行った.この交換後の残留溶液中のフッ素濃度を測定した.最初の2週間では各材料のフッ素徐放性能を,またその後の2週間では各材料のフッ素チャージアップ能,ならびにこれにおよぼす浸漬フッ化物濃度と浸漬時間の影響を検討し,以下の結果を得た. 1.両材料ともにフッ素を放出したが,レジン成分配合のFLCの方が放出量が多かった. 2.チャージアップ能に及ぼすNaF溶液の濃度の効果は2%の方が大きかったが,浸漬時間の影響は少なかった.
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