Research Abstract |
目的:本研究の目的は個人のジェンダー規範の成立と地域社会に存在するジェンダー規範との関係を究明することにある。具体的には,(1)日本の特定地域社会内に,どのようなジェンダーが規範化され,モデルや制度として定着しているのか。また(2)そこに暮らす個々人は,その中でどのようなジェンダーを形成し,内面化し,さらには規範として身に付けていくのか。(3)その際,親・家族・地域社会などは個人のジェンダー形成や規範化にどのように影響を与えているのかについて,a)個人の生活史に関する調査と,b)地域社会の日常会話や日常の行動・行事・祭りなどの参与観察調査を通じて明らかにする。 調査方法:徳島県B町(主に漁師町地区)におけるフィールドワークから 研究成果:個々人のジェンダー形成を理解するべく,個人の生活史についてB町町民51人から各人1時間半以上に及ぶ聞き取り調査を行い,録音テープの文字化作業を終え,データ整理と各人のライフヒストリーをジェンダーの分析視角に基づき編集している。編集し終えたライフヒストリーから分析された結果は次の通りである。(1)個々のジェンダー規範を理解するためには,「進学・就職・結婚・出産をめぐる個々人の選択や決定について」,詳しいデータを収集し分析したことが有効であった。これらには個々人が当該の出来事までに内面化させてきた当人のジェンダー規範と,周囲の人々や地域社会のジェンダー規範の双方が明確に示されやすい。個人と周囲との選択や決定をめぐる一致点,差異点,さらに折り合い方などに,個人と地域社会の性差・権力構造・役割意識などが具体的に抽出された。(2)しつけや子育てのあり方などは,男女間のジェンダー規範以上に世代間の差が強く見られた。また(3)地域の行事や祭りなどの習俗・慣習の中に男女児,男女の取り扱いが明らかに異なる場合があり,こうしたジェンダー規範の多くは今だ地域の人々に守られ続け,性差の再確認が行われる結果となっていた。なお(4)漁師町では昭和30年代後半まで,女性が自立し生活するだけの収入を得る職業がほとんどなく,結婚し夫に扶養されなければ生活できなかった。こうした経済面の「男性>女性」構造に加えて,「夫のいる女性>夫のいない女性」という別の権力構造の軸による差異化も見られた。 これら具体的事例をふまえ,筆者はジェンダー規範を考える指標として,ジェンダーを3つの相にわける必要があるとわかった。第1相は「役割」面から(大人役割,子ども役割,漁師役割,漁師の妻役割,夫婦役割,など)。第2相は「性別」面から(性別と進路決定・労働の条件・内用など)。第3相は「人間の差異化と複数の権力関係軸」から(戦後未亡人の生活,網元と船子関係,未婚者と既婚者の関係など)である。 B町では第1相と2相の一部分は戦後徐々に変わりつつあるが,第3相は比較的固定的で継承され続け変りにくい。
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