1996 Fiscal Year Annual Research Report
中学校社会科教師のコミュニケーション能力促進のための訓練プログラムの開発
Project/Area Number |
08680288
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
木下 百合子 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (10169914)
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Keywords | 社会科教育 / 教授コミュニケーション / コミュニケーション方式 / コミュニケーション能力 / 教授テクスト |
Research Abstract |
授業は、教師と生徒・生徒たちとの関係のなかで成立するコミュニケーション事象であり、教師のコミュニケーション行為と能力は、生徒の学習遂行ならびに社会的な人間関係の形成に重要な役割を果たしているという理論的立脚点から本研究を進めている。 本年度は、さらにこの教授コミュニケーションについての理論的研究を教師の言語行為に焦点化して継続している。その中間成果として、(1)生徒と教師の肯定的な人間関係の条件と結果である生徒の肯定的な感情が、授業で学習活動がうまく進められているために不可欠の手段である。(2)感情豊かでない、単調なコミュニケーション行動は、教師と生徒の関係をさまたげ、心理的なへだたりを生み出す、(3)学級の学習雰囲気は、生徒の能動的な学習に大きな影響を与えているが、この学級の雰囲気を創りだすのに教師のことばのもつ雰囲気が重要な役割を果たしていることが明らかになった。生徒の能動的学習遂行にとって、肯定的な人間関係が生み出す安定した感情、学級の雰囲気は土台になる。教師の言語構成能力を理論的に明らかにすることはさらなる課題である。 第二に、学生と生徒へのアンケートを実施した。学生のアンケートの結果では、教授対象についての教師の言語行為よりも、「褒める」、「励ます」などの教授学的一訓育的刺激化と調整の言語行為が、学生の思い出に残っていることが明らかになった。学生のアンケートで、教師の言語行為が否定的に作用した事例も挙げられている。良好な教師と生徒の人間関係が存在している学級と、同一の教師でやや否定的な関係が見られる学級の生徒に実施したアンケートでは、特記するに値する際立った差異は認められなかった。アンケート項目の再検討が必要だと思われる。 第三に、地理の授業における教師と生徒のコミュニケーション方式を分析した。(1)目標設定と刺激のコミュニケーション諸方式、(2)素材の提示のコミュニケーション諸方式、(3)学習過程の指導と統御と評価と判定のコミュニケーション諸方式、(4)思考行や諸見解や諸知識などの交換のコミュニケーション諸方式、(5)教授学的一訓育的刺激化と調整のコミュニケーション諸方式の五つの分類にしたがって行った。この五つのコミュニケーション諸方式はいずれの授業でもみられるが、その比重には相違がみられる。説明、報告などの素材提示のコミュニケーション方式が中心を占める授業、質問一答えのいわゆる問答教授にに典型的な諸思考や諸見解や諸知識などの交換のコミュニケーション諸方式が中心の授業などいくつかのタイプにわけることができる。教授学的-訓練的刺激化と調整のコミニュケーション諸方式はどの授業にもみられる。現時点までに分析している授業では、説明、指示、生徒の自主的作業、問答が比較的多く見られる。それぞれの教師のテクストについて、テクストの構造分析を行い、どのように構造化すれば論理性を保持できるか、生徒にとって分かりやすいか、あるいは情動喚起力をもつか、などを検討している。
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