Research Abstract |
本研究はパン酵母による不斉還元を不斉導入法として,各種の光学活性天然物を合成することを目的としたもので,平成9年度は以下に述べる成果が得られた. 1.ニガキ科植物Quassia multifloraから単離され,未だ立体構造が決定されていない鎖状トリテルペンエーテルのクァシオールAの不斉合成を検討した.パン酵母による不斉還元で合成したユニットを結合して,最初に(3R,6S,7R,18R,19S)-体を合成した.スペクトルや旋光度の値は一致したが,18-アセテート体の旋光度が一致しなかった.次に(3R,6S,7R,18R,19R)-体を合成したが,これは天然物と一致しなかった.さらに(3R,6S,7R,18S,19R)-体を合成したが,スペクトルは一致するものの旋光度の値は天然物のものと大きくことなっていた.天然物はこれら,またはそのエナンチオマーでなければならないが,どれとも一致しないという結果となった.そこで,スペクトルと旋光度が一致している(3R,6S,7R,18R,19S)-体を天然物の立体構造として提出した. 2.8個の不斉中心をもつ鎖状トリテルペン・オイリレンのエナンチオ選択的合成を,昨年に続いて行った.すでに必要なキラル中心を備えた二つのユニットの合成法を確立しているので,その結合法を検討した.モデル実験も含め,種々検討したが現在のところ成功していない. 3.当初予定していたゾアパタオールの合成が困難であったので,そこで得られた成果を参考にしてヒッポスポンジン酸の不斉合成と絶対配置の決定を検討した.この物質はヒトデの原腸形成を強く阻害する活性をもっている.これまでにラセミ体の合成によって合成経路を確立することができ,現在パン酵母による不斉還元を用いて,光学活性体の合成を鋭意進めている.
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