1996 Fiscal Year Annual Research Report
音楽美学におけるEnergertikの再検討〜20世紀前半の諸芸術思想における力性概念との比較を通して〜
Project/Area Number |
08710021
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
木村 直弘 岩手大学, 教育学部, 助教授 (40221923)
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Keywords | 音楽美学 / Energetik / バッハ / バウハウス / イッテン / ハウア- / シェーンベルク / 対位法 |
Research Abstract |
今年度の研究により明らかになったのは以下の点である。 1.空間式諸藝術の「音楽化」という(絵画や建築の)構造を科学的側面から音楽と類似させて理解する架橋は、例えば抽象絵画のようにリズム的・対位法的・多声的といった時間的質を獲得させたが、これにふさわしい音楽素材が、対位法的(線的)思考という横糸と和声的(色彩的)思考という縦糸によるテクスチュアをもつJ.S.バッハの作品であった。藝術思想の著述に力性概念を多く援用したカンディンスキーやクレーらが音楽を視覚的に翻訳する際に選んだのがまさにそれであり、彼等が活躍したバウハウス(ヴァイマ-ル)における音楽活動は、こうした傾向に多大な影響を与えていた。H.リヒタ-によって構想された共感覚的藝術である絶対映画に、やはりバウハウスと交流の深かったプゾ-ニがバッハに範をとった「対位法原理」導入を示唆したものも同じ理由によると考えられる。また、バウハウスで更に注目すべきなのは、指導的役割を果たしたJ.イッテンが、12音技法をシェーンベルクとほぼ同時期に構想したJ.M.ハウア-の音楽思想から多大な影響を受けており、これが、その後のバウハウスにおける数々の共感覚的領域での創作活動に影響を与えていることである。 2.Energetikerの一人E.クルトによって、バッハについて展開された旋律論『線的対位法の基礎』では、「線的」という言葉は、無調から12音技法へと至ったシェーンベルクらがバッハの音楽を奉じたことを意識して、和音から自由な新しい音響領域での実験的な音の繋ぎ合わせをとは異なったものであるとされたが、シェーンベルクが深く調性に根差した思考を有していた保守的革新家であったことを考え合わせると、バッハの和声的対位法を支持したシェーンベルクらと12音音楽については口を閉ざしたEnergetikerたちは思想的に同根であると措定できる。
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Research Products
(1 results)