1996 Fiscal Year Annual Research Report
日本古代にける住民(農民)規範の検討とその国際比較研究
Project/Area Number |
08710228
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
坂江 渉 神戸大学, 大学院・文化学研究科, 助手 (00221995)
|
Keywords | 農民規範 / 百姓像 / 力田 / 農桑労働 / 浮浪・逃亡 / 国際比較 |
Research Abstract |
本研究では、従来ほとんど注目されてこなかった日本古代の百姓像や国家的な農民規範の問題に焦点をあて、その内容を具体的に考察し、また日中比較研究を試みた。その研究成果は次の通りである。 第一に、日本の王権は規範奨励のやり方をめぐり中国王権の大きな影響を受けているにもかかわらず、そこで育成が図られた農民像のあり方は中国のそれと少なからず異なっていたこと、第二に、具体的には、中国では一貫して「農桑労働への専念」というモラルが重んじられていたのに対し、日本では、農民による「社会的弱者の救済」という要件に重点がおかれており、それは「力田」という史料用語の概念の違いに典型的にあらわれていること、第三に、かかる違いは日中双方の社会のあり方の相違を反映しているが、とくに日本の場合、それが敢えて奨励されだした要因としては、八世紀初頭以降、急速に昴った社会の「流動性」(=浮浪・逃亡行為の激化と都鄙間交通の増大)が関連すること、などの点である。 これらの点を踏まえ、さらに究明されるべき課題の一つは、このような独特の形をとった国家的な農民規範を奨励せしめた在地社会側の規範意識(=「ことわり」)は、はたしてどのようなものであったのか、という点がある。これについて報告者は、前述の社会の「流動性」の問題と関わってその一端を分析したものの、その全面的な検討には至っておらず、今後、それをトータルに検討する作業が不可欠になると思われる。
|
-
[Publications] 坂江 渉: "「『戦後歴史学の世界史認識』によせて 〜石田田正氏の場合〜」" 『歴史評論』. 558号. 19-22 (1996)
-
[Publications] 坂江 渉: "「古代国家と農民規範 〜日中比較研究アプローチ〜」" 『神戸大学史学年報』. 12号. 1-25 (1997)
-
[Publications] 坂江 渉 (吉田晶先生古希記念会編): "「古代国家の農民像と地域社会」(『吉田晶先生古希記念論集』)" 塙書房(不明), (1997)