1996 Fiscal Year Annual Research Report
古墳の装飾に用いられた赤色顔料に関する鉱物学的研究
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08710273
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Research Institution | National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo |
Principal Investigator |
朽津 信明 東京国立文化財研究所, 国際文化財保存修復協力センター, 研究員 (50234456)
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Keywords | 赤色顔料 / ベンガラ / 朱 / 古墳 |
Research Abstract |
古墳の装飾に用いられた赤色顔料は鉄系のベンガラと水銀朱とに大きく分類されることが古くから知られてる。よく知られているように、一般に朱の産地はベンガラに比べれば極めて限定されているため、入手がより困難であったと考えられることから、その赤色顔料の利用の意義や背景を考察する際に、それが朱であるかベンガラであるかの情報を得ておくことには重要な意味がある。しかし、このうちのベンガラという言葉については、その定義は曖昧であり、殆ど純粋な酸化第二鉄である赤鉄鉱の鉱石のようなものが用いられている場合もあれば僅かに含まれる三価の鉄の存在で赤く見えている様なものも存在する。従って、鉄系の赤色顔料が確認されても、その入手法や技法には様々な種類があったことが想定され、少しでもそれらを詳しく記載していけば、その考察に寄与することが期待される。そこで、本研究では、赤色顔料のうち、鉄系の赤が用いられているものについては、単に鉄の赤という意味でベンガラと記載するのではなくどのような化学鉱物組成のものであるかをなるべく正確に記載することを行い、ベンガラのさらに細かい分類を試みた。このような視点から、島根県と鳥取県下の古墳で用いられている赤色顔料を系統的に分析したところ朱が見られた古墳ではすべてそれは純粋な鉱石としての朱であったが、鉄系の赤の場合には、かなり純粋な赤鉄鉱の鉱石もあれば、酸化鉄は含まない赤色粘土のようなものである場合もあり、また両者の中間的な場合も観察された。こうした違いは、多分に連続的であって明確な区別やグループ分けは困難なものの少なくともベンガラと一口に言っても、その入手法や製法には異なるいくつものバリエーションがあったであろうことが明らかにされた。
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