1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08710296
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
石田 仁志 東京都立大学, 人文学部, 助手 (80232312)
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Keywords | モダニズム文学 / 都市空間文学 |
Research Abstract |
本研究は大正末期から昭和初期の文芸雑誌に掲載された日本文学作品群から、当時の文学作品に描き出された東京をはじめとする都市空間の姿を、その具体的な表現に沿って抽出し、その都市像をとらえ、人間の感性表現と都市空間表現との関係を考察することを目的としたものである。本課題において取り上げた雑誌は『文学時代』『文芸市場』『文芸公論』『作品』『文学』『文科』の六誌である。各雑誌ごとに描出された都市空間の具体的な事例に基づいてカード化し、それを集積して分類する中から都市空間表現の基本性格を分析した。そこに描き出された都市空間は『文芸時代』や『文芸戦線』において提示された都市イメージの延長線上にある。その基本的な性格として挙げうるのは、(1)繁華街や駅、路上などの群衆表現の多用、(2)新しい風俗(商店や服装)の描写の頻出、(3)自動車、飛行機などの交通メディアの描出、(4)工場や労働者の描出、(5)アパート、新興住宅などの都会的居住空間の描出、などである。また、そこに表されている感覚・感性は、流動性、新しさ、速度感、肉体性、個別性などである。こうした空間表現と感性との関係から考察し得た昭和モダニズム期の都市像と文学表現との関連は、震災後の東京の新たな都市開発に触発されて、従来言われてきたような、享楽的な都市文化という側面を文学表現が補完し、追従している面を指摘できる。だが、本研究では都市の流動性の表現から当時の都会人の抱く不安定感に着目。個別性の表現と相まって、モダニズム文学の中に流れる浮動的な孤絶感へと結びつく。それは、急速なスピードで変化していく都市のライフ・スタイルの中で自己の新たな存在様式を模索する性質ものと言いうる。この点に関しては、さらに昭和10年代の都市像と文学表現との関連を分析する必要があり、本研究においてはその基礎となる性質を分析し得た。
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