1996 Fiscal Year Annual Research Report
プロテアソームによる精子微小管滑り運動の分子制御機構
Project/Area Number |
08740649
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 一男 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (80221779)
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Keywords | 精子 / ダイニン / プロテアソーム / プロテアーゼ / プロテインキナーゼ / 鞭毛運動 / プロテインホスファターゼ / 魚類 |
Research Abstract |
サケ科魚類の精子は淡水に放精されたときに運動を開始する。その運動制御機構にプロテアソームが関与することをこれまで明らかにしてきた。免疫電顕の結果から、プロテアソームが精子鞭毛軸糸のダブレット微小管に結合している外腕ダイニン付近から細胞膜に向かって伸びている突起に存在することが明らかとなった。またプロテアソームの基質あるいは阻害剤により20kDaの軸糸蛋白質のリン酸化が阻害されることがわかった。軸糸の高塩濃度溶液抽出とその後のショ糖密度勾配遠心により、20kDa蛋白質がダイニンのサブユニットの一つであるダイニン軽鎖2であることが明らかになった。また、20kSDa蛋白質はcAMP依存性プロテインキナーゼでリン酸化を受けることがわかった。一方、この蛋白質のプロテアソーム基質による阻害が、cAMP存在下でも観察されること、およびプロテインホスファターゼの阻害剤であるオカダ酸で阻害されることから、プロテアソームはプロテインホスファターゼの不活性化に関与することが示唆された。さらに、オカダ酸の濃度依存性からこのプロテインホスファターゼはタイプ2Aであることが示唆された。リン酸化された20kDaダイニン軽鎖2を脱リン酸化するプロテインホスファターゼ部分精製した結果、このプロテインホスファターゼは抗PP2A抗体と強く反応したことからも以上の結果は支持された。以上の結果からプロテアソームはダイニン軽鎖2を脱リン酸化するタイプ2Aのプロテインホスファターゼを不活性化することによりダイニン軽鎖2のリン酸化を上昇させ、その結果ダイニンの活性化、微小管の滑り運動活性化を引き起こし、精子鞭毛運動を活性化するというスキームが考えられる。プロテアソームの基質蛋白質としてはプロテインホスファターゼの調節サブユニットの一つである可能性が非常に高く、今後プロティンホスダターゼの完全精製とその調節サブユニットの分解を解析することが最優先課題であると考える。
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[Publications] K.Inaba: "Identification of tubulins associated with the 950 kDa protease from salmon sperm" Biomed. Res.17. 87-93 (1996)
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[Publications] K.Ogawa: "Is outer arm dynein intermediate chain 1 multifunctional?" Mol. Biol. Cell. 7. 1895-1907 (1996)
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[Publications] T.Mukai: "Genetic relationships of the genust ridentiger (Pisces,Gobiidae) based on allozyme polymorphism" Zool. Sci.13. 175-183 (1996)
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[Publications] 稲葉一男: "プロテアソームによる精子鞭毛運動の制御" 生物物理. 203. 48-50 (1996)
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[Publications] 稲葉一男、森沢正昭: "図解生物科学講座「発生生物学」(浅島誠編)(分筆)" 朝倉書店, 182 (1996)