1996 Fiscal Year Annual Research Report
深海性魚類における汎世界種の遺伝的変異と種分化:パナマ地狭の形成と関連して
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08740674
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
宮 正樹 千葉県立中央博物館, 動物学研究科, 学芸研究員 (30250137)
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Keywords | 分子系統学 / 生物地理学 / 種 / 種分化 / ミトコンドリアDNA / 深海性魚類 |
Research Abstract |
汎世界種である深海性ユキオニハダカCyclothone albaの遺伝的変異を調べるために,3大洋から得られた44個体の標本と,外群であるC.signata,C.braueriならびにC.acclinidensから計11個体,総計55個体の標本からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNAの16SrRNAの前半領域およそ380bpをPCR法により増幅した.このPCR産物をもとに,ダイレクトシークエンス法により当該領域の塩基配列の決定を行った. その結果,ユキオニハダカ種内で種間に匹敵するきわめて大きい変異が認められただけでなく,その分化は地域的にきわめて限定されたものであることが明らかになった.さらに,パナマ地峡による個体群の分断に代表されるいくつかの地理的分断が分子系統樹上で確認できた.また,これらの明瞭な地理的分断以前に太平洋内で従来の生物地理学的なパターンからは予想できなかった,大洋内における個体群の分断が明らかになった. 地理的・海洋学的障壁がないこのような大洋内における地理的分断が数百万年前におこり,さらにその分断の影響ががいまだに続いていることは,外洋における「種」というものを改めて考え直さなければならないことを示唆している.形態的にまったく分化せずに遺伝的分化のみ進行するというこの新たな外洋種における種分化パターンの発見は,今後の外洋生物地理学でけでなく,外洋生物学に対して強烈なインパクトを与えるだろうと思われる.
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