Research Abstract |
本研究の目的は,夜間徘徊を伴う老年痴呆患者に対し,適切な感覚刺激を与えるような作業療法を行うことによって,徘徊が減少する,という仮説を検討することであった.方法は,夜間徘徊のある86歳の女性に対し,ベースラインである最初の約27日間は,貼り絵などの机上での認知訓練を中心とした作業療法を行った(A期).次の約30日間は,随意的な眼球運動を中心とした前庭系刺激を促進するような風船バレーボール等のアプローチの頻度を多くした(B期).その後,徘徊症状が安定したため,再びA期のアプローチに戻した(次のA期).すべての期間を通して,1週間に2回の頻度で,居室内にVTRを設置し,午前1時30分から午前4時13分までの163分間,行動を記録した.また,各期に数回ずつの頻度で,MMS,パラチェック老人行動評定尺度(PGS),GBSを実施した.VTR記録は,睡眠,ベッド上坐位,居室内徘徊,居室外徘徊の時間と行動様式について各期ごとに解析した.結果として,MMS,PGS,GBSは,各期を通して有意な変化は認められなかった.居室外徘徊時間については,A期,B期とも自己相関が5%で有意ではなく,系列依存性がなかった.そこで,A期(平均13.9分,SD9.75),B期(平均3.5,SDが5.97),次のA期(平均22.3,SD23.03)の平均居室外徘徊時間を分散分析にて検討した結果,3条件には1%の水準で有意差が認められた(F=4.392,p<001).t検定の結果,1%の水準で,A期とB期,A期と次のA期には有意差はなかったものの.B期と次のA期では,有意に次のA期の居室外徘徊時間が長かった.さらに,中央分割法による加減速線celeration line methodの検討の結果,A期とB期は,p<.05の確率で,B期の居室外徘徊時間が有意に低下した.以上の結果より,B期で行った感覚刺激を中心とした作業療法アプローチが夜間徘徊を軽減させる可能性が示唆された.
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