1996 Fiscal Year Annual Research Report
メラノサイトの増殖,機能分化,およびアポトーシスを規定する因子に関する研究
Project/Area Number |
08770636
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五十棲 健 東京大学, 医学部・附属病院, 講師 (30168091)
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Keywords | メラノサイト / 細胞培養 / アポトーシス / フローサイトメトリー |
Research Abstract |
筆者はアメリカでは入手可能な新生児および小児の包皮からのメラノサイトの培養には成功している(Iozumi K et al : J.Invest.Dermatol.100 : 806-811,1993.)が,本邦では包皮の入手が困難で,アメリカから輸入した細胞株を用いるのが常道である(選択の余地に乏しいが購入も可能).これまで試みた成人正常皮膚からのメラノサイトの培養は少なくとも新生児包皮と同じ条件では成功していない.この点が日本におけるメラノサイト研究を困難にしている第一の原因である.また、成人の包皮では材料の入手困難と真菌の汚染でうまくいかなかった(何とか入手した包皮からの培養でしばらくはきれいなメラノサイトが生着していたが、ケカビ類の混入をみた。)また、大きな色素細胞母斑からおびただしい数の母斑細胞を得たが、これらは培地内での分裂傾向を示さず、培養は不成功であった。この点は、母斑細胞や既に分化し、高度にメラニン形成をし遂げたメラノサイトはもはや分裂しがたくなっていることを示唆した。 さて、培養メラノサイトは人種により形態もメラニン産生量も異なる。黒褐色調のメラノサイトは顕微鏡下での形態が大きく、細胞密度の小さい段階で増殖を止めるが、逆に淡褐色調のメラノサイトは高密度まで増殖し、形態は小さく見える。両者をフローサイトメトリーにかけたところでは、細胞内顆粒密度(グラニュラリティー)については黒褐色調の細胞が淡褐色調の細胞よりも高い傾向を示した。しかし、セルサイズについては、顕微鏡下の観察と異なり、黒褐色の細胞の方が小さい傾向を示した。この点は細胞の分離や操作の際に、黒褐色の大きなメラノサイトにのみ強くネクローシスまたはアポトーシスが誘導された可能性も考えられ、さらに検討を要する。これまでの観察より、培地のTPA濃度や細胞の分化度がアポトーシスに影響する可能性などを考えているが、そうすると、実験の再現性という点で、初代培養からの時間がまちまちな培養細胞を用いてアポトーシス研究をすること自体に問題をはらんでいる可能性がある。また、細胞株の人種による違い等も含めると、細胞の振る舞いには未だ人知を越えたところがあり、なお、多くの検討課題が残っているのが実状である。
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