Research Abstract |
談話は,新しいものを話題にし,すでに話題にしたことを再び取り上げ新しい属性を加えることで進行する.すなわち,談話とは,話し手と聞き手の共有知識状態の絶え間ない更新であり,メンタル・スペース理論の用語では,増加可能集合ととらえられたメンタル・スペースへの要素の導入と,要素間の関係構造の精緻化である.談話管理の観点からは,名詞句の基本的機能は,新しい要素の導入と,すでに導入された要素の同定である.この2つに機能に対応して,名詞句は不定名詞句と定名詞句に分かれる。不定名詞句は,冠詞をもつ言語では不定冠詞句であり,談話への新しい要素の導入という役割に特殊化している.定名詞句は談話の整合性を保証する役割をもち,ここには,定冠詞句,指示形容詞句,固有名詞句,代名詞句などが含まれる.定名詞句の基本的役割は照応だが、新しい要素の導入も行える.定冠詞,不定冠詞は,要素についての知識が話し手・聞き手に共有されているかどうかを表す.冠詞をもたない日本語では,名詞句自身は定・不定を表現せず,裸名詞は不定名詞句と定名詞句(特に,定冠詞句の用法)の両方の役割を果たす. こうした観点から,日本語とフランス語・英語の名詞句の用法を詳細な対照研究を行ない,日本語の裸名詞句は,フランス語・英語の不定冠詞名詞句と定冠詞名詞句のほぼすべての用法ももち,また,日本語の指示詞名詞句は,フランス語・英語の指示形容詞句の用法をもつことを明らかにし,このことが,談話管理との関係でどのように説明できるかを論じた.成果は,「英語と日本語の名詞句限定表現の対応関係」に発表した.
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