1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08871001
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 雅之 九州工業大学, 工学部, 助教授 (70207918)
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Keywords | オートポイエ-シス / 創発性質 / 構造的カップリング / エナクション / コネクショニズム / 認知 |
Research Abstract |
第三世代システム論としてのオートポイエ-シス論は、相互作用、因果性、システムの入力と出力、主体と環境、目的、部分-全体、事態とその根拠といった既存の語彙を廃棄する点で、既存の思考体系から一線を画する。一言でいうなら第三世代システム論は、観察者の視点を行為者の視点へと移行させる新しい思考体系である。 本研究は、このように広範な射程をもつオートポイエ-シス論の枠組みを使って、認知活動を解明をおこなう試みである。そのため鍵となる概念として、「創発性質」と「構造的カップリング」がとりわけ重要である。 まず、心的性質(認知)は神経系の創発性質であると考えられる。認知は、多数のニューロンネットワークの創発性質であると見なすことができるのである。この点で、コネクショニズムの原理に親和する。またこれは同時に、記号原理から生物原理(サブシンボルレベル)への移行による認知概念の拡張を意味する。 まあ、認知システムは「構造的カップリング」によって環境を知覚すると考えられる。「認知」を導く規則がなくても、システムの内的構造とそれが環境とカップリングされる仕方を決めるだけで、外界の識別が可能になるのである。 ところで、オートポイエ-シス論の提唱者であるマトゥラ-ナとヴァレラの間には、その後見解の相違が生じた。マトゥラ-ナは、オートポイエ-シス概念の従来の思考体系からの断絶を強調し、ヴァレラは従来の枠組みとの接合を目指しているように見える。後者は近著では「エナクション」(身体化された認知)概念を提唱しており、この概念もまた認知活動の解明には重要であると思われる。 今後、色知覚、言語習得、カテゴリー形成などの具体例に即して、以上のような原理の説明力を検証してみる予定である。
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