1996 Fiscal Year Annual Research Report
戦前期日本における経済哲学研究の導入と展開-その独自性と現代的意義-
Project/Area Number |
08873001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岡部 洋實 北海道大学, 経済学部, 助教授 (10204017)
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Keywords | 新カント派 / 文化価値 / 極限概念 / 方法論的個人主義 / 現象学的方法 / 貨幣 / 価値 / 象徴 |
Research Abstract |
本研究は、平成8年度、9年度の二年間に渡り実施するものである。本年度は主に、左右田喜一郎、本多謙三 杉村廣蔵等、大正期を中心に第二次大戦前期日本の経済哲学関係の文献、20世紀初頭のヴィンデルバント、リッケルト、ゾンバルト等ドイツ西南学派の文献、フッサールを始めとする現象学関係の文献を収集し整理した。 当時の日本の経済哲学研究の要に位置したのは左右田喜一郎といってよいが、周知のように、彼の経済認識論はドイツ西南学派(新カント派)をベースとしており、その内容は貨幣論を軸として展開された。彼の経済認識論は、基本的に方法論的個人主義によっており、来年度は、同じく新カント派の方法を採るオーストリア学派のフォン・ミ-ゼスと、方法論的な比較を試みたいと考えている。左右田の後継と目される本多謙三は、左右田の成果を継承しつつも、経済学に現象学的方法を適用しようと試みた点において、注目される。当時脚光を浴び始めたフッサールの現象学は新カント派に批判的であったが、本多は、左右田の“貨幣を価値の客観的表彰とし、交換手段と規定するのを拒否する"という見解を踏まえつつ、貨幣を経済現象の「理念」・「形相」として位置づける。そして、そこから貨幣概念の先天的原理についての現象学的研究という方法を構想した。もっとも、このような本多の独自の構想は、彼がマルクス主義に接近したこと、そして彼の死去によって終焉した。 以上は、第二次大戦前期日本の経済哲学研究の軸の一つである貨幣論(哲学)の展開の一部であるが、来年度は、こうした展開の中で経済認識論がどのような変遷をたどったのか、そして、現代の主流をなす実証主義的な経済学や方法や、近年注目されつつあるオーストリア学派や制度学派の方法などに比較してもつ独自の意味はどこにあるのかといった点について、検討を深めたい。
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