2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J03176
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田崎 郁子 Kyoto University, 東南アジア研究所, 特別研究員(DC2)
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Keywords | タイ山地 / カレン / 商品作物生産 / 表象 / 都市移動 / マイノリティー |
Research Abstract |
本研究の目的は、タイのカレン社会における商品作物生産に着目して、カレン社会の変容や、タイ社会とカレンの人々との関係性を明らかにすることである。1年目に当たる平成20年度は、第1に、タイにおいて農村や山地の生業がどのように表象されてきたのかを文献資料から明らかにした。特に、王室ヘゲモニーを基盤とした「セタキット・ポー・ピアング(足るを知る経済、以下S)」言説に着目した。 1997年以降普及してきたS言説は、当初国王による自給的生産を重視する農業理論として語られたが、多様な層によって定義づけられ普及する中で、資本主義に対抗しうる節制した生活全般を示す哲学に変容したこと、それがあるべきタイ的農村生活を規定する都市中産階級による農村の表象となって農村=他者が創造されていくことが指摘されている。一方でS言説は、1980年代以降自他によって表象されてきた「商品作物生産に疎く森と共生する知恵を持ったカレン像」と一致する。そこで第2に、カレン社会における商品作物生産の実態や変遷、その表象の概要を広域調査から把握し、山地を取り囲む言説と自他表象との関連を考察した。現在、高等教育を受けた20-30代のカレンの人々が、タイ社会におけるカレンの表象を十分把握した上で村に戻っている。一方で、多くの村では商品作物生産が欠かせない。その中で、S言説だけでなく、政府や教会組織による「ローカルを想い愛す」という開発標語、互助を強調する仏教観、共同体文化復興などが村人を取り巻いている。これが、タイ社会の中で、変化しつつもある一定のポジションでカレン社会が再生産されていく仕組みの一つになっているのではないか。しかしその中でも、S言説は時にはカレンの人にとって共同体再建の拠り所として語られてもいる。このように、タイにおける山地の生業の表象はそこでの生業の在り方を規定し、またそれに対応する形でカレン社会の自他表象も生まれていることが明らかとなった。
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