2008 Fiscal Year Annual Research Report
「性病」と帝国-ロシアから日本への「検黴」制度の伝播とその後-
Project/Area Number |
08J09621
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮崎 千穂 Nagoya University, 国際言語文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近代史 / 異文化交流 / 日露関係史 / ロシア / 医学 / 検徹 / 長崎 / 道徳言説 |
Research Abstract |
本研究は、西欧から日本、日本からその植民地(朝鮮・台湾・満州)へとグローバルに連鎖していった「検黴」(梅毒検査)制度を手がかりに「性病」のありようを考察し、帝国医療おける「性病」の地位、特殊性を明らかにし、医療・衛生の観点より「帝国」を捉えなおすことをめざすものである。 本年度は、九月より十月にかけて、ロシアのサンクトペテルブルグ、モスクワの文書館および図書館において関連史料の調査を実施し、長崎にて梅毒検査を伝えたとされるリハチョーフ艦隊の医療責任者メルツァーロフの「航海医学日誌」を発見した。この史料は、従来、注目されてこなかかった貴重な史料であり、ロシア艦隊医師が医学的観点より開港期の日本を如何に認識したのかを示す重要な史料として評価できる。この史料の考察の結果、以下のことが判明した。 メルツァーロフの艦隊医師としての活動には、ロシア海軍のアジアにまで及ぶ遠洋航海の初段階にあってロシア帝国空間を生産する「医学の地理学」という学知としての重要性が見出せる。日本への検黴の導入は、ロシア帝国の空間の広まりを意味するものであったといえるのである。メルツァーロフが長崎港において行った梅毒対策(「梅毒との闘い」)は、道徳という言説による開港場長崎の知の支配であった。彼は道徳を基準として各寄港地、各地域、各国を序列化する梅毒の地誌を作成し、特に日本を梅毒の顕著な「不道徳な国」として色ぬったが、それは梅毒という伝染病の克服が「極東」進出の鍵を握る重要なファクターのひとつとして艦隊医師の眼に映っていたことを意味する。メルツァーロフは、梅毒感染の広まりを克服するために道徳言説により日本を更生の対象として地図上に徴を付したが、それは開港場長崎(日本)の知の支配といえるものであった。
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Research Products
(2 results)