2008 Fiscal Year Annual Research Report
がん細胞におけるテロメアの維持機構とテロメラーゼの新たな生理機能
Project/Area Number |
08J11574
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Research Institution | Japanese Foundation For Cancer Research |
Principal Investigator |
平島 匡太郎 Japanese Foundation For Cancer Research, 癌化学療法センター分子生物治療研究部, 特別研究員-PD
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Keywords | テロメア / がん細胞 / マイクロアレイ / 遺伝子オントロジー |
Research Abstract |
真核生物は染色体DNAを完全にはコピーできず、複製のたびに末端配列のテロメアが短くなる。分裂増殖をくり返し、テロメアがある一定の長さよりも短くなったヒト体細胞では、細胞老化が誘導され細胞周期が停止する。一方、ほとんどのがん細胞ではテロメラーゼが活性化しており、テロメア維持による無限の増殖を実現している。興味深いことに大半のがん細胞では、テロメラーゼが活性化しているにもかかわらず、周辺正常組織の細胞よりもテロメアが短い。がん細胞があえて短いテロメアを保持する理由は存在するのか、存在するとすればどのような分子が関与しているのか、明らかではない。テロメア構造はゲノムのある領域内の遺伝子発現へ大きな影響を与える可能性がある。そこで本研究では、がん細胞が短いテロメアを保持することの合目的性を検証すべく、ヒトがん細胞のテロメア長に応じた遺伝子発現パターンの変化を網羅的に解析した。 まず2種類のがん細胞にhTERT、tankyrasel、DN-TRF1いずれかの遺伝子を過剰発現させ、テロメアを著しく伸長させた株を樹立した。次にこれらの細胞株の全遺伝子発現パターンを比較解析し、テロメア伸長に伴って有意に発現量が変化する遺伝子を絞り込んだ。これらの遺伝子発現はテロメア長に直接、あるいは極めて強く影響を受けているものと予想される。発現変化する遺伝子をオントロジー解析し、有意に濃縮された遺伝子群を見いだした。そのうちのいくつかの群は細胞接着や細胞外マトリクスのカテゴリーに属していた。とりわけ細胞外マトリクスカテゴリーでは、属する遺伝子のほぼ全てがテロメア伸長に伴い発現上昇を示した。以上の結果から、テロメアの長さはヒト細胞の分裂寿命を規定するのみならず、細胞接着因子などの働きを転写レベルで制御し、ひいては転移・浸潤といった高次のがん悪性形質にも関与する可能性が示唆された。
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