Research Abstract |
研究は,マレーシアにおいて口腔癌の発生頻度がタミル人に次いで高い原住民のブミプトラ(サラワク州)を対象として同様の患者,対照の手法を用いて,口腔癌の発症に及ぼす栄養の影響についてタミル人と比較して,異民族間における口腔癌のリスク要因と防護要因を検討することをの目的に行われた。 口腔癌・前癌病変が高率にみられるカレイ島の椰子園農場と椰子油精製工場の労働者(タミル人)423名,クラン地方におけるタミル人138名,およびサラワク州におけるその他のブミプトラ(イバン族・ビダユー族)613名を対象にフィールド調査(口腔粘膜健診,生活習慣,学歴,喫煙・飲酒・ビンロー咀嚼習慣歴についての面接・聞き取り調査,栄養・食餌品目調査),および,末梢血中のRetinol,∂-tocophelor/Vitamin E,Zeaxanthin/Lutein,Cryptoxanthin,Lycopene,∂-carotene,β-carotene,β-caroteneの定量を行った。調査対象者の24.2%が白板症(前癌病変)を有し,69.8%が健常者であり,病変を持つグループの平均年齢はタミル人56.5歳,ブミプトラ47.9歳であった。ロジスティック回帰分析によるタミル人における口腔癌,前癌病変発生リスク要因を分析した結果,タミル人では基本属性,生活習慣,血清分析値の各変数のうち,口腔癌,前癌病変発生に最も寄与したのはびんろう咀嚼習慣(オッズ比:34)であった。さらに,末梢血中の低いaカロチンレベルは約1.3倍高い疾患発症リスクを認めた。ブミプトラについても類似した結果を得た。すなわち,口腔癌,前癌病変を有すグループの全員かびんろう咀嚼習慣を持ち,他に,アルコール飲用はオッズ比5,8カロチンレベルはオッズ比1.5を示した。 びんろう咀嚼習慣が口腔癌発症のリスク要因であることは広く知られている。しがし,その習慣を持つ民族は熱帯・亜熱帯地域に広く分布しているのにもかかわらず,強い地域・民族特異性を示す。本研究ではびんろう咀嚼に加え,カロテノイドの欠乏(血清中の低い濃度)が口腔癌・前癌病資め発症に寄与することが示唆された。
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