1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09207106
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大津 由紀雄 慶應義塾大学, 言語文化研究所, 教授 (80100410)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日比谷 潤子 慶應義塾大学, 国際センター, 助教授 (70199016)
今泉 敏 東京大学, 医学部, 助教授 (80122018)
伊藤 友彦 東京学芸大学, 教育学部, 助教授 (40159893)
西垣内 泰介 神戸松蔭女子学院大学, 文学部, 教授 (40164545)
内田 伸子 お茶の水女子大学, 教育学部, 教授 (70017630)
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Keywords | 言語獲得 / 文法の発達 / 談話の発達 / 音声の発達 / インターフェイス / 言語処理 / 喃語 / 成熟 |
Research Abstract |
総じて研究は順調に遂行しており、最終目標とする言語獲得理の構築に向けて着実な成果があがっている。以下、個別の成果について簡単に述べる。 大津と今西は共同で文法獲得理論についての諸問題を整理し、できるだけ見通しのよい形にまとめあげた。その成果は「言語の獲得と喪失」(岩波書店)に収録の論文として公刊した。さらに、大津はコネクショズムにもとづく文法獲得モデル、とくにElman Netの検討を行い、その基本的問題点を明確にした。 西垣内は論理・意味構造と文法構造の関連領域とその言語獲得理論への締結について考察した。子どもの量化表現および疑問文の獲得についての先行研究を検討し、その理論的意味合いを考えた。また、平成11年度に実験を実施するための予備的研を行った。さらに、Thomas Roeperの視点と文法理論及び文法獲得についての研究について、対照言語学的観点からのディスカッションを行った。 佐野は幼児英語における助動詞doの発達をCHILDESデータベースの検索により調査した。否定文において3単現一致のエラーがある段階でも疑問文においては同様のエラーはみられないという結を得た。 伊藤は統語範略の発現順序について論じ、伊藤では幼児期に過剰生成される「ノ」の統語範略について述べた。また、伊藤では聴覚障害児の格助詞および受動文の誤用について論じた。さらに、伊藤では統語発達と知能能力の発達との関係について述べた。 正高は乳児の前言語期における語彙記憶能力の実験的研究をおこなった。その結果、初語の出現にさかのぼること数ヵ月まえに語彙の短期記憶および長期記憶の能力を有することが判明した。 内田は言語獲得の臨界類似内にある子どもは、思春期以後に第2言語に曝された人々に比べて第2言語を習得することが容易なのであろうかという問題を取り上げ、3,4歳からカリフォルニアに移住した幼児、児童の英語の習得過程について短期縦断的に追跡した。その結果、音韻規則の習得は母語話者並であり会話産出においてはなんら欠陥が認められないが、統語規則(特に複数形や冠詞、因果律の接続詞)においては、かなりの欠陥が認められ、読み書き能力の習得が課題となる童期には、その欠陥がさまざまな学習画に影響を及ぼしていることが確認され、言語の領域によっては自然に言語に曝されるだけでは習得されずなんらかの組織的学習が必要であると推測された。 今泉は音韻概念形成に関連する脳の可塑性を視聴覚訓練と脳磁図を使って解析した。日本語話者には比較的弁別の困難な英語/r/,/l/音の視聴覚弁別訓練を行ない,認知的弁別能と調音能力、および聴覚野の脳磁界反応に観測される訓練前後での変化を解析した。その結果、日本語成人話者においても、訓練によって非母語の音韻範〓が知覚・生成の両面で形成されることが示唆された。 日比は日系1世カナダ人によって書かれた資料の分析を通して、明治時代末から大正時代にかけて起こった英語から日本語への借用の事例を検討し、それを現代日本語における借用後音韻論に関する先行研究の成果と比較・検討した。音節構造、特に挿入母音について集中的に分析を進めた。
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Research Products
(25 results)
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[Publications] 大津由紀雄: "Elman Netに関する覚書." 慶應義塾大学言語文化研究所紀要. 第30号. 241-247 (1998)
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[Publications] Otsu,Yukio: "A functional MRI analysis of comprehension processes of Japanese sentences," NeuroReport. 9. 3325-3328 (1998)
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[Publications] 今西典子: "言語獲得と普遍文法" 岩波講座言語科学10『言語の獲得と喪失』. 39-101 (1999)
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[Publications] 内田伸子: "会話行動に見られる性差" 女性語の世界. 74-93 (1998)
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[Publications] 内田伸子: "文章を理解する過程はトップダウンかボトムアップか" 認知心理学における論争. 165-188 (1998)
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[Publications] 内田伸子: "第二言語習得における成熟的制約-第二言語としての英語習得の過程-" 教育心理学会第40回総会発表論文集. 33 (1998)
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[Publications] Uchida,N.& M.Imai: "Heuristics in Learning Classifiers:The Acquisition of the Classifier System and Its Implications for the Nature of Lexical Acquisition." Japanese Psychological Research.Vol.1,No.1.50-69 (1998)
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[Publications] Nishigauchi,Taisuke: "‘Multiple sluicing'in Japanese and the Functional Nature of wh-Phrases." Journal of East Asian Linguistics. Vol.7,no.2. 121-152 (1998)
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[Publications] Nishigauchi,Taisuke: "On the wh-Island condition." Theoretical and Applied Linguistics at Kobe Shoine(TALKS). No.1. 15-37 (1998)
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[Publications] 西垣内泰介: "原則とパラメータの理論ーー日英語のWH構文をめぐってーー" 『大航海』(東京,新書館). No23. 71-79 (1998)
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[Publications] 伊藤友彦: "認知発達及び言語獲得理論の現状と知的障害児の言語獲得研究" 発達障害研究. 19. 287-293 (1998)
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[Publications] 伊藤友彦: "過剰生成される「ノ」の統語カテゴリー:幼児の一例の縦断研究" 東京学芸大学紀要第1部門. 第49集. 143-149 (1998)
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[Publications] 伊藤友彦: "聴覚障害児における格助詞の誤用:言語学的説明の試み" 音声言語医学. 39. 369-377 (1998)
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[Publications] 伊藤友彦: "聴覚障害児の受動文における統語知識:項構造と句構造を中心にして" 特殊教育学研究. 36. 23-30 (1999)
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[Publications] Sano,Tetsuya: "Developmental Observations on the Auxiliary Do and the Optional Infinitive Hypothesis." The 23rd Boston University Conference on Language Development,November 1998,. (口頭発表). (1998)
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[Publications] Masataka,Nobuo: "Peroeption of motherese in Japanese Sign Language by 6-month-old hearnig infants." Developmental Psychology. 34. 241-246 (1998)
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[Publications] Imaizumi,s.,et al.: "Task-dependent laterality for cue decoding during spoken language processing." NeuroReport. 9(5):. 899-903 (1998)
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[Publications] Imaizumi,S.,et al.: "Activation of the auditory cortex by ultrasound." Lancet,. 351. 496-497 (1998)
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[Publications] Imaizumi,S.,et al.: "Plasticity of non-native phonetic peroeption and production:A traning study." Proceedings of ICSLP98. Vol.6. 1887-1890 (1998)
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[Publications] 日比谷潤子: "複合語短縮" 世界の日本語教育. 8. 47-65 (1998)
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[Publications] 日比谷潤子: "日本語の変化と教育" Proceedings of the Thirteenth Annual Conference of Southeast Association of Teachers of Japanese.1-6 (1998)
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[Publications] 大津由紀雄: "言語の獲得と喪失" 岩波書店, 191 (1999)
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[Publications] 内田伸子(編著): "言語発達心理学-読む書く話すの発達心理学" 放送大学教育振興会, (1998)
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[Publications] 内田伸子: "まごころの保育-堀合文子の言葉と実践に学ぶ" 小学館, (1998)
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[Publications] 西垣内泰介: "論理構造と文法理論" くろしお出版, 212 (1999)